5.書込み方テクニック
プロ・アマを問わずオーケストラ・プレイヤーが、パート譜に書き込む記号などについて、お話しします。
◇めがね(めだま)
注意を喚起(かんき)する記号。主に指揮を注視すべき(指揮に合わせるべき)ときに使われる。ほかにソリストを見るとか、コンマスを見るとか、トップを見るとか、その他のプレイヤーを見るとかにも、よく使われる。
音楽的現象面からみると、アンサンブルがズレやすいところとか、(指揮を)見るとアンサンブルがよくなるところとか、リタルダンド、アッチェレランド、ルフトパウゼなどの音楽的な仕掛があるところに、多く使われます。
◇なみ(〜)
一種のリタルダンド記号。「なみ(波)」の数、「なみ」の幅などで、リタルダンドの程度をも示す。非常に便利。
◇やじるし
前項「なみ」に対応している、一種のアッチェレランド記号。テンポ・アップをしはじめる箇所から、右向きの「やじるし(矢印)」を書くことで示す。
やじるしの書き方には個人差があって、アッチェレランドのスタート場所に引いたごく短い縦線の中央から右向きのやじるしを引く(左
90゚に倒したT字状態)ひと、またやじるしを水平に引くひと、左下から右上に向かって1回転した楕円の輪を書いた線のその先にやじるしをつくるひと、左下から右上に向かって斜めの直線のやじるしを引くひとなど、様々です。なお最後のパターン(左下右上直線)のひとで、水平やじるしを「イン・テンポ」の意味にしているひともいます。
◇カウントマーク
音楽とは時間の芸術ですから、常に数字がつきまといます。また常にカウントすることを求められます。ですから、カウントの一助として記号を使うと、かなり役に立ちます。カウントマークには、いくつかの種類や方法があります。
指揮者が「いくつ振りか」ということを、曲頭や拍子の変わるところなど、指揮に変化のある箇所に書き込む方法があります。これには、例えば1小節4つ振りのときに、ただ単に「4ツ」と書くほか、「in
4」だとか、正方形などの図形を書くとか、斜線を4本書くとかいろいろありますが、これもひとによって様々です。
また、音符が細かかったり写譜がまずくてリズムが判りにくいところに記す、線(主として斜線)記号があります。たいていの場合、拍の頭に長い線、裏拍に短い線を引きます。
このほか、小節数のカウントもよく書き込みます。例えば、同じ音形が16小節続く場合、全小節に1から16まで数字をふる場合と、休符が続いた後で音符がある場合、逆カウントをする(例えば5小節前から5、4、3、2、1と入れる)方法があります。
◇V字
ルフトパウゼ(少しの間)の記号です。もちろん、ルフトパウゼを意味する音楽記号「‖、’(=カエスーラ)」も存在しますが、縦に細長い大きなV字を書く方がより見やすく、とっさのときには反応しやすいものです。
◇強調
印刷された記号などに手を加えて、よりわかりやすくする方法です。いちばん簡単な方法としては、用語や記号を「まる」で囲むのがありますが、このほかにも、鉛筆でなぞって色を濃くする方法などもあります。また、cresc.の文字だけでは反応しにくいので、加えて松葉記号を書くのも一種の強調ですし、リピート記号に五線からはみ出して飾りをつけるのも、この方法のひとつです。
◇よく使う音楽記号
音楽用語や音楽記号も書き込みによく使われます。例えば、スタッカート記号、テヌート記号、クレッシェンド・デクレッシェンド記号、コーダ記号、Meno
mosso、Piu mosso
などが、その例として挙げられます。ただしこの方法は、音楽用語・記号の正しい理解があってはじめて有効ですので、注意が必要です。
また、楽典には載っていないが極めてよく使われる記号に、V.S.があります。これは、譜めくりした次のページの最初から音符があるときなど、大至急ページをめくらねばならないときの記号で、Volti
Subito(ただちにめくれ)の略です。
◇楽器による記号
楽器によっては、特有の記号を使うことがあります。例えば、トランペットのミュート指定を、使用する弱音器の形を略号化して表すのがあります。フィンガリングについても、数字で表したり、右手左手の使い分けをR,L
と表記したり、タンギングをTKTKと表記したり、ブレスの記号を作って使用したり、それも(息を)吐くブレスと吸うブレスの記号を区別したりと、様々です。
いずれにせよ「書き込み方のテクニック」の極意は、他人と共有できる記号はできるだけ共有し、それができないものは自分で創造し、なおかつ使用する記号などの種類を必要最小限にすることなのです。
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