8.音楽スタッフ
◇コンサートマスター
前述しましたが、本番では副指揮者の役割を持つ、オーケストラのトップ・プレイヤーです。音楽的に常にリードして、オーケストラ全体を引っ張っていかなければなりません。楽器の演奏技術も、卓抜したものが求められます。また人間的にも、楽員の信頼を勝ち得なければなりません。
また、指揮者に対しては楽員の、楽員に対しては指揮者の、有能な代弁者にならなければなりません。
良いコンマスは、よく勉強しています。それも指揮者の視点と各プレイヤーの視点でです。それは、指揮者の主張と楽員の事情の接点を、早く見つけ出すために必要だからなのです。
また良いコンマスは、よく聴いています。弦楽器のいちばん後ろのひとの音まで、そして管楽器・打楽器の音まで聴いていて、問題がある度に適切な指示をします。ほとんど後ろに目があるのではないかと思うくらいです。
コンマスは、極めて正確に、かつ伸び伸びと演奏できなければなりません。その延長線上にコンマス合図があるのです。それができなくて合図だけをマスターしようとしても、楽員にはただ邪魔なだけで、彼らは当惑してしまいます。
楽員から、音楽的、技術的、人間的信頼を得ることなく、それでもコンマスの地位と名誉にすがりつくのは、一種の犯罪行為です。
◇団内(トレーニング)指揮者
団内指揮者は、指揮棒を振ることが仕事ではありません。極論をいうと、指揮なんてできなくてもよいのです。むしろ下手すぎる指揮は、邪魔でしかありません。
団内指揮者の本来の仕事とは、合理的に、かつ計画的に、オーケストラの練習を進めることなのです。
そもそも指揮者というのは、楽器を操作する必要が全くありません。その分、精神的に大きな余裕があるのです。だからプレイヤーに、こと細かな指示ができるのです。楽器と格闘して、音を出すことに夢中になっているプレイヤーに、客観的な指示を冷静に出すことができるのが、優れた団内指揮者の務めなのです。
手を動かすことが大事件になって、耳を使う余裕すらなくて、ましてや良いアドバイスなど望むべくもなく、それでも団内指揮者のポストにかじりついているというのは、一種の犯罪行為です。
◇トップ奏者
演奏中においては、パート内を音楽的にまとめ、音楽的なリーダーシップを取るのが役目ですが、演奏以前においては、コンマスと相談の上、パート内の奏者にとって最も合理的な奏法を決定するのも、重要な仕事です。またトップ奏者は、パート内の各奏者の、特性、演奏技量、癖なども、よく把握しておく必要があります。
◇インスペクター(インペク)
練習時におけるマネージャーです。練習中のタイム・キーパーでもあります。また、奏者のリハーサル参加者数等の把握、器材等の準備状況の把握のほか、指揮者の視点で練習進行の組立をシミュレーションしておく必要もありますし、奏者の精神衛生面に気遣い、練習中の状況をその都度的確に判断し、時には練習進行の点で指揮者に助言することも必要です。
◇ライブラリアン
新曲に取り組む際に、あらかじめ楽譜を手配し、増刷して楽員に配布するほか、毎回のリハーサルにおいては、スペアのパート譜と指揮者用スコアを準備しておくのも、重要な仕事です。
◇ステージ・マネージャー(ステマネ)
公演当日の進行役です。公演の最高責任者である指揮者の意向を受けて、あらかじめ進行台本をプログラムしておかなければなりません。出演者およびステージ・スタッフは、全てステマネの指示で動きます。流れるようなステージ進行を実現するために、照明のキュー(合図)を出したり、楽員のオン・ステージのキューを出したり、時にはロビー・マネージャーや楽屋マネージャーとの、トランシーバーによる連絡を受けて、タイム・テーブルを変更したりと、臨機応変な判断力を求められます。
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