1.公演企画
アマチュア(アマ)のオーケストラ(オケ)の活動は、そのほとんどを公演および公演に向けての活動で占められている場合が多い。よってアマオケの活動の概略を知るには、公演の企画について検証するのが最も効率のよい方法である。
本稿では、公演企画の概略を述べることにより、事実上のチェックリストを提供することを目的とする。
楽団全体が、企画した公演に向けての音楽活動に入る前(またはリハーサル活動のごく初期の間)に、必ず設定しておかなければならない初期条件について述べることとする。
◇公演の基本コンセプト
企画する公演の基本コンセプトを策定するにあたり、前もって以下の事項について明確にしておかなければならない。
次に、上記事項についての結果をふまえて、下記の事項について(暫定的なものも含めて)明確にしてゆかなければならない。
◇指揮者ブッキングおよび契約など
ブッキング(Booking=人員や座席の予約のこと)とはこの場合、主に「日程押さえ」のことをいう。
一般的には、音楽監督など楽団にアドバイスをいただけるプロの音楽家(原則として指揮者)がいる場合には、その方と相談のうえで公演指揮者の候補者を数名選出し、交渉順位を明確にしたうえで順に出演交渉をすることになる。このとき注意しなければならないのは、複数の候補者に(時間的に)重複して交渉をしてはならないことである。たとえば、交渉していた複数の候補者のうちの2名から受諾の返事があった場合には「ダブルブッキング」となり、どちらかをキャンセルしなければならないことになって、その結果、キャンセルした指揮者には多大なご迷惑をおかけすることになるし、また楽団の信用も著しく傷つくことになるからなのである。ダブル(ときにトリプル)ブッキングのエラーは、複数の交渉担当者がいてお互いが密に連絡を取り合っていないときに起こりやすい。この種のエラー回避のためには、交渉窓口の一本化を図ることが最善である。
さて公演指揮者の(公演当日の)日程押さえが完了したら、同時にリハーサル予定(または回数)の確認をすることになる。このとき、公演当日からさかのぼる形で決めていくと効率がよい。なおこの時点では、若干の予定変更もありうる暫定的なスケジュールとしておく方がよい。
指揮者の出演交渉でいちばんデリケートな問題は、出演料の交渉である。常識的な手順としては、その指揮者がアマオケを指揮する場合の、通常の料金設定を提示していただくことからはじめることになる。そしてその額が(暫定的な)予算枠の 150%までならばその額で契約し、予算枠の 150%を大きく超える場合には当初予算枠を示したうえで出演料交渉をすることになる。いずれの場合も、指揮者は公演における中心的な音楽的個性であり、楽団の音楽活動に直接影響を与える指導者でもあるので、出演料交渉に際して楽団の担当者は、公演指揮者に充分納得していただけるような形で臨まなければならない。
指揮者との契約に際しては、出演料のほかに企画に参画していただく範囲を明確にすることが必要である。常識的にいって指揮者は、その責任を全うするために音楽に関することを中心に多くの指示や提案をすることになるが、あらかじめ企画参画の範囲に関しての取り決めを特にしていなかった場合には、楽団は全面的に受け入れなければならないことになる。基本的には、指揮者の指示や提案を全面的に受け入れたとしても、楽団としては何の問題もない(むしろメリットの方が大きい)だろうが、ただ事業主体が楽団にない場合には、楽団スタッフが指揮者と主催者の板挟みになることも充分考えられることなので、注意が必要である。またこれとは逆に、指揮者のより積極的な助言を必要とするときにも、あらかじめ企画参画要請をしておくほうがよいだろう。
公演においてソリストなどが必要な場合には、特に問題がない限り指揮者に紹介していただく方がよいといえる。また公演企画の一部または全部を、エージェントに依頼しようと考えている場合にも、指揮者に相談しておくと、その企画にふさわしい代理店を紹介していただける可能性も高い。
なお、ソリストなどのブッキングおよび契約についても、指揮者のそれに準ずるものとする。
◇公演会場予約
各会場の利用規定にしたがい、公演会場の利用申し込み(公演会場予約)をする。このときエントリーする公演予定日については、あらかじめ指揮者と仮契約をしていたときには指揮者の予定を考慮したり、楽団に別の予定があるときにはその予定との整合性を考慮したりしながら決定することになる。
なお稼働率の高い会場で、公演開催希望日に多数の利用希望者が競合して抽選の当選確率の低いことが予想される場合、複数の架空の音楽鑑賞団体名称でエントリーすることによって抽選における当選確率を高め、利用に際しては当選した音楽鑑賞団体主催での楽団公演という形にすることができるが、利用規約に抵触する恐れがあるのであまり薦められない。
◇プログラム選曲
指揮者の助言を得て、公演プログラムを決定しなければならない(選曲アンケートという名の、全楽員の人気投票で選曲することは、絶対に回避すべきである)。むろん公演の基本コンセプトなどに選曲上の制約がある場合には、それにしたがって決めることになる。
また選曲が終了した段階で、ただちに楽譜を調達しなければならない。なお、使用する楽譜の版(ヴァージョン)については、指揮者の助言にしたがうものとする。なお演奏で使用する楽譜については、オリジナルを避けコピーしたものにしておく方がよい。
◇予算立案
公演制作費およびその関係費として、経常経費も含めた予算を立案することになる。
考えられる歳入項目には、以下のものがある。
考えられる支出項目には、以下のものがある。
予算立案に際しては、各経費項目の相場を充分にわきまえたうえで、各種単価や各種利用規定・契約条件を満たした数字で算出しなければならない。
また、公演企画が完全に固まった時点(公演の1〜2カ月前)で、綿密な修正予算を立案しなければならない。このとき、各予算項目別に支払額・支払時期・支払担当者を明確にしておく必要がある。
楽団活動の根幹をなすものが、この「リハーサル」である。リハーサルは、動員する延べ人数でも活動の延べ時間でも、他の活動から群を抜いている。だからリハーサル活動の充実は、ほとんど楽団活動の充実と同義語なのである。楽団の発展成長のためには、このリハーサルに最大のエネルギーを注がなければならない。
◇リハーサル計画
楽団の定時練習をベースに指揮者等のスケジュールを加味したうえで、シーズン中のリハーサル計画を立案しなければならない。
まずシーズン中のリハーサル回数についてであるが、定期公演など楽団のメインとなる公演のリハーサル回数の目安は、社会人オケで15〜25回、学生オケで40〜60回である。たとえ楽団にとってさほど重要でない公演についても、プログラムが楽団のレパートリーにない曲であるのならば、ひとつのプロダクションにつきメイン公演の6割程度のリハーサル回数を要するだろう。なお公演指揮者のリハーサルは、これら全リハーサルのうち6〜12回程度が目安となる。
1日のリハーサルは、楽員の集中力が持続する時間として60分を1単位(コマ)とし、通常は各コマの間に小休憩(10〜15分)を入れた形で3コマまでとするが、集中練習として大休憩(60〜90分の食事休憩)を1回とった場合は5コマ、中休憩(30〜40分のティータイムブレイクなど)を1回とった場合は4コマに延長することができる。
リハーサル内容についての計画は、公演当日から逆算する形でおこなうとよい。全プログラムをひととおりこなすことを1サイクルとして考えると、公演当日は、1日の間にゲネプロと本番の、2サイクルこなしていることになる。前日(または前日を含む直前2〜3日)は、おそらく1サイクルこなしていることだろう。このことを逆に捉えて論ずるならば、公演当日が近づけば近づくほど1サイクルに要する時間が短くなる、といえるのである。
一例として20週完了の場合を以下に示す(サイクル=クールとして考える場合もある)。
なおリハーサル内容についての計画は、機械的に割り振るだけでおっぱに立案しておくおざのがよい。それは、綿密に立てた練習計画ほど実行が難しくなるし、かに計画が達成でわずきなかっただけで計画自体を根底から立案しなおさなければならないれにリハーサル自し、そ体、どんな計画を立てたかということよりも、どんな練習ができたかとにおいて、重要ないう点意味をもつものだからである。
◇リハーサル会場の確保
立案された練習計画にしたがい、リハーサル会場の確保をしなければならない。リハーサル会場の(特に音響の)善し悪しは、楽団の練習効率に多大な影響を及ぼすので、選定には充分な配慮が求められるところである。
またプログラムのなかにピアノ協奏曲がある場合、ソロ合わせの予定にもかかわらずグランドピアノのない会場を予約してしまうというミスがある。さらにチェロ協奏曲の場合には、ピアノ椅子が準備していないというミスがある。リハーサル会場の確保にあたっては、付帯設備や備品の保有内容にまで神経を使わなければならないのである。
リハーサル会場は、リハーサルの予定時刻の前後の準備時間を考慮して予約しなければならない(逆にいえば、リハーサル時刻の設定は、会場の利用可能時間を考えたうえでおこなわなければならない)。
リハーサル会場には、とうぜんのことながら合奏に適した部屋のあることが必須だが、このほか指揮者やソリストの控え室もできる限り確保しておかなければならない。また余裕があれば、降り番楽員用の練習室も確保するとよいだろう。
◇出演者および指導者への連絡
指揮者・ソリストおよびトレーナーなど、楽団外から招聘するプロの音楽家の方が来団される折りには、その都度、前もって連絡をしなければならない。連絡は1〜2週間前に電話にて、その後ただちに文書(確認書)にておこなう。なお文書を発送する前に、FAXにて速報を入れる場合もある。なお口頭(電話)では要点のみを、文書では詳細を伝達するとよい。
主な確認事項を以下に示す。
また以上の連絡に先立ち、宿泊施設の予約や交通手段の確保を、必要に応じておこなっておかなければならない。特にホテル等の予約に関しては、わりと直前までキャンセルが可能なので、常に早め早めにリザーブしておく方が賢明だといえる。なお交通手段に関して、往路分を(ゲストに)立て替えていただき現地精算をする場合には、ご到着後、なるべく早い時期に精算しなければならない。
◇楽器運搬および練習環境の整備(セットアップ)
楽団の楽器運搬担当者は、リハーサルの度に楽器庫(またはそれに類するもの)から楽器を運搬しなければならない。たとえば楽器庫とリハーサル会場が同一館内にある場合は別だが、たいていの場合、楽器運搬には多くの手順を要する。
往路だけをみても「楽器庫から楽器の搬出。楽器車(搬送用のトラックなど)への積み込み(荷台への固定作業を含む)。運搬。リハーサル会場での積み降ろし。搬入」となるのだが、とうぜんのことながら、リハーサル後に全く逆の手順で復路分をこなさなければならない。
運搬を要する器材には、以下のものが考えられる。
楽器庫とリハーサル会場が遠隔地(同一施設内ではないの意)の場合、器材の忘れ物(積み残し)には最大限の注意を払わなければならない。忘れやすいのは楽器以外の器材、特に指揮者関係のものが多く、これらはリハーサルの進行に直接影響を及ぼすことになる。
なお器材運搬に関しては、運搬用ケースとしてジュラルミンケースを利用するなど、運搬用アイテムを開発することが必要だろう。
さて、リハーサル施設が部屋の広さに余裕があるときには、オケの前方に大きな空間をとるようにセットアップする(仕込む)のが望ましい。つまり、金管後列が壁際になるように配置するのだが、この理由は公演会場のことを考えれば明確になるだろう。いずれにせよ、リハーサルとはいえども常に音響を念頭に置くことである(天井高が不規則な場合にはこの限りではない。音響がベストとなるようなオケ配置を考えることである)。
オケのおおよその位置が決定したら、指揮台を中心に1プルト目のセットアップを慎重にしなければならない。毎回のリハーサルから本番にいたるまで、できる限りオケの1プルト目の位置関係が不変であることが、オケの基本機能開発に益するのである。たとえ会場が狭くとも、1プルト目の位置関係は確保したいものである。
さて、指揮台前方に指揮者用譜面台を置き、指揮台上に指揮者用バス椅子が準備できたら、譜面台の脚下(あしもと)に荷物置き台としてのパイプ椅子を1脚準備しておくとよい。またソロ合わせのときにも、ソリスト用の椅子と譜面台のほかに荷物置き台としてのパイプ椅子を1脚準備しておくとよい。
オケ全体のセットアップについても、各プレイヤー間の間隔には充分注意する必要がある。楽員同士の間隔は、アンサンブルに微妙な影響を及ぼすからである。特に、楽員同士の間に楽器置き台としてパイプ椅子を何脚も置く場合があるが、これなどはほんらい、もってのほかなのであって、そんなところから楽器スタンドの必要性が高まるのである。
◇リハーサルの進行
楽団内でのリハーサル進行の責任者は、インスペクター(インペク)である。
インペクは、指揮者やソリストが来団されたおりに、リハーサルに先立っておおまかな予定等の打ち合わせをしなければならない。このとき、ゲストから何らかのリクエストがあった場合には、それにあわせた変更箇所をリハーサルに先立って楽員に伝えることになる。
楽員に対してインペクは、練習開始時(休憩後の再開時も同様)のチューニングの指示(特にコンサートマスターに対して)や、休憩時間の設定(再開始時刻の設定)および発表、休憩終了直前の練習再開予告(手を鳴らす程度)など、状況の変化を正確な時間に則して伝える役割をもつ。
特に休憩時間の設定に関しては、リハーサルの進行を指揮者の目で捉えたうえで残り時間を考慮しながら判断しなければならないし、そのうえ楽員の疲労度も考慮しなければならず、常に臨機応変さが求められる。
ただし一般楽員が協力的な場合には、意外とスムーズな進行ができるものである。
◇トレーナー・レッスン
アマオケにとってトレーナーによる分奏レッスンは、個人レッスンと指揮者リハーサルとの間を埋めるものとして、必要不可欠なものである。
誤解を恐れずにひとくちで表現するならば、個人レッスンとは楽器奏法の基礎を学ぶところであり、トレーナー・レッスンとは楽器奏法の応用とアンサンブルの基礎を学ぶところであり、指揮者リハーサルとはアンサンブルの応用を学ぶところなのである。
楽をして美味しいところ(公演の本番)が欲しいという楽団は別だが、常にクォリティが高く密度の濃い音楽を求める楽団ならば、楽員の個人的な楽器レッスンとともに楽団としてのトレーナー・レッスンは、必要不可欠なものといわざるを得ない。
トレーナー・レッスンは、ややシーズン前半に集中しながらもシーズンを通しておこなうのがよい。
トレーナーとは、音楽監督や指揮者のスタッフである。トレーナーの人選には、これらの指導者にお願いするのが最もよい方法である。なお、依頼するトレーナーの部門は、オケの発展状況に合わせて以下から選ぶとよい。
全2部門 | 全7部門 | 全14部門 |
弦楽器トレーナー 管・打楽器トレーナー |
ヴァイオリントレーナー ヴィオラトレーナー チェロトレーナー コントラバストレーナー 木管楽器トレーナー 金管楽器トレーナー 打楽器トレーナー |
ヴァイオリントレーナー ヴィオラトレーナー チェロトレーナー コントラバストレーナー オーボエトレーナー フルートトレーナー クラリネットトレーナー ファゴットトレーナー トランペットトレーナー トロンボーントレーナー ホルントレーナー 打楽器トレーナー 弦楽器総合トレーナー 管・打楽器総合トレーナー |
トレーナー・レッスンを受ける各セクションの楽員は、常に目的意識をもって臨まなければならない。限られた時間内にどうしても指導を受けたいところが明確でない限り、効率のよいレッスンは望めないのである。
なおトレーナー・レッスンの前後の時間(日程)を確保して、トレーナーに各楽員が個人レッスンを受ける(レッスン料受益者負担、必要経費楽団負担)のも、発展性のある考え方である。
◇合宿
強化練習に主たる目的をおいた合宿は、楽団の音楽的成長に寄与するものである。そして、練習が主たる目的の合宿は副次的に、楽員同士の深い相互理解や親睦にも益するものである(親睦が目的の合宿は、楽員同士の浅薄な狎れ合いと音楽的退行をもたらす。しかし、楽団主導ではなく、楽員有志が自主的に企画した「親睦」目的の合宿は、楽団の活性化につながる)。
合宿には適正な期間(長さ)というものがある。それは、社会人オケで2泊3日、学生オケで4泊5日から5泊6日までというものである。もしも合宿が、この期間よりも長いと楽員の体力や集中力がもたないし、短いと時間的に非常に効率が悪いものとなるのである。
合宿の成否は、合宿参加楽員の出席率の高さと、合宿中のONとOFFのけじめにかかっている。楽員参加率の低い合宿や規律の低い合宿ならば、躊躇(ちゅうちょ)することなく中止すべきである。オケのリハーサル活動において合宿は、決して必要不可欠なものではないのである。
楽団が公演(内輪の発表会ではなく)活動をしている以上、団体としては地域社会と密接なかかわりを持っていることになる。ここでいう地域社会とは、地域の住民、自治体、企業などのことを指すが、楽団が特定の地域内で活動しているからには、むしろ積極的にこれら地域社会とかかわっていく方がよいのである。地域社会との濃厚なかかわり方には、楽団の公演(本番そのものを指す)以外にも、広報活動や営業活動などがある。特にアマオケの場合、ほとんどの楽員が広報活動や営業活動の必要性を認識していないので、どうしても手薄になりやすい分野である。その意味で、楽員の教育から取りかからなければならないことも多い。楽団の広報・営業活動について述べることとする。
◇共催・協賛・後援依頼
楽団が主催する公演でも、経営負担軽減のために、共催者や協賛者を募(つの)る場合がある。
よくみられる共催の例には、公演会場を管理する財団の事業部が共催者になる場合(会場無償提供の形が多い)や、地域財界が出資し自治体が管理者となる文化財団が共催者になる場合(助成金出資の形が多い)などがある。
協賛の場合、冠コンサートなど数100万円規模の助成から、せいぜい数10万円規模の助成まで、さまざまである(トヨタ・コミュニティー・コンサートは、一種の協賛の例)。
共催や協賛がついた場合には、それなりの大きなメリット(その多くは助成が受けられるというもの)があるが、それにともなって、共催者や協賛者からそれなりの制約を受けることが多いということは、あらかじめ理解しておかなければならない。
共催や協賛の依頼には、常に困難が伴う。そのわけは、財団なり企業なりにとって、アマオケの助成をすることに大きな意義が見いだせず、助成の意味付けに苦慮するからである。しかし、それでも共催や協賛の依頼をする場合には、財団や企業レベルでも充分に通用する各種資料をそろえたうえで、先方の興味を喚起するようなシナリオにのっとり、多方面から(直接、間接を含め)同時に働きかけることである。アマオケにとって、これらの働きかけへの援護活動が期待できるのは、国会議員、地方自治体首長、地方議員、上級官庁、監督官庁、各業界、商工会議所、JC、広告代理店などである。
さて後援は、共催や協賛とはことなり、多くの公演でごく普通にみられるものである。
ただし、楽団の主催公演に後援がついたとしても、ほとんどの場合、物理的な助成は何もない。ただ、後援者にマスコミがついた場合、パブリシティ関係において広報活動上のメリットが受けられることが多い(広報活動が不得手なアマオケにとって、実はこれが大きなメリットとなる)。
後援者には、マスコミのほか地方自治体やその教育委員会などがつくことが多いが、これらはほとんどの場合、楽団のステイタスとしての意味しかもたない。楽団創立期ならばともかく、やたら数を並べればよいというものではないので、後援を依頼する場合には、あらかじめその候補を絞り込んでおかなければならない。
なお、後援の依頼方法については、それぞれの機関の定めるところによる。
◇チラシ・ポスター・チケットの制作
チラシ・ポスターなどのメディアは、一般大衆のチケット購買意欲を喚起するものでなければならない。またチケットは、満足感(購買に対する)と信頼感(演奏に対する)を感じさせるものでなければならない。
要するに、アマチュアの楽団だからこそ、背伸びをしてでも、これらメディアをアマチュアらしくないものにしなければならないのである。いかにも素人っぽいものは、決して作らないことである(決して見栄や趣味の問題ではなく、公演のトータルバランスの問題である)。
これらのメディアの制作は、それこそケースバイケースなので詳述を避けるが、もしも行き詰まった場合には、シンボリックなデザインやカラーで統一するという方法を採るとよい。
これらのメディアの主な記載内容を以下に示す。
それぞれの発行枚数は以下のとおりである。
特にチラシに関しては、この程度の枚数を運用できることが、楽団としての最低条件である。
◇ポスター・チラシの運用およびチケットの販売
健全な楽団経営のためには、最低でも1カ月半以上は、ポスター・チラシの運用およびチケット販売期間にとりたいものである。
さてポスターは、公共の空間に掲示されることにより、はじめてそのメディアとしての役割を発揮する。ポスターの運用に際しては、まず掲示空間のリストアップからはじめなければならない。一般的に考えられる公共の掲示スペースには、各会館ホールのエントランスロビー、社会教育用施設(社会教育センターや公民館や市民センターなどの名称)のロビー、美術館・博物館・図書館などのロビー、街頭の公共掲示板などがある。このほか、飲食店などの店内壁面に掲示してくれる場合もあるので、機会をみてこまめに頼んでみるとよい。
チラシの運用方法は多岐にわたる。
まず考えられるのは、各種公共施設の催し物案内コーナーなどに、一定枚数(数10枚単位)を置かせていただくというものである。このような催し物案内コーナーは意外と数が多いので、あらかじめ調査しておくとよいだろう。またアフターケアとして、1〜2週間に1度は様子を見て追加補充する必要がある。
次に考えられるのは、他の演奏団体の公演パンフレットへの挟み込みである。運用期間中に地域内で催される公演のうち、観客層が比較的近い公演の主催者にあらかじめ申し込み、公演当日の開場前(少なくとも1〜2時間前)の会場に出向き、公演パンフレットにチラシを挟み込ませていただくというもの。公演の告知効果としては、かなり高いものが期待できる(主催者の了解が得られなかった場合には、会場入り口前での街頭配布となる)。
また、公演案内としてDM(ダイレクトメール)に同封する運用法がある(郵便料金のことを考えると、今後DMの現実味は低くなることが予想される)。さらに各楽員個人が運用する方法としては、個人レベルでのチラシの手渡しによる広報活動や、チケット販売の付属アイテムとしての利用法が挙げられる。このほか、あまり薦められないが街頭配布という運用方法もある。
次にチケットの販売について述べる。
チケット販売は、アマオケにとっては避けて通ることのできない、いちばんの課題である。この問題は、一般売りでの完売を目指すくらいの意気込みで取り組まなければ、いつまでたっても改善されないだろう。この意気込みとは、とどのつまり楽団の音楽的および技術的な成長と、広報活動をはじめとする楽団経営の成長を達成することなのである。広報活動の充実によりクォリティの高いオケだとの評判をとり、実際の演奏がそれ以上のクォリティだったときにはじめて、全チケット発券数の1/3なり1/2なりの一般売りが実現するのである(そうなればこの数字は、チケット販売の基礎数として信用できるものになる)。
しかしその域に達するまでの楽団におけるチケット販売の基礎数は、残念ながらチケットノルマということになる。健全なチケットノルマ制とは、楽員が販売努力を惜しまなかったときには、充分に資金回収の可能性があるというものである。常識的には、枚数は25枚以下、総額は1万円以上2〜3万円以下(1995年度の物価対応)、楽員への販売価格は額面の70〜80%(一種の卸値)といったところだろう。楽員は可能な限りチケットの定価販売をしなければならない。この姿勢が将来的にチケット販売状況改善に益するのである。
ときに、チケットノルマ制を採らずに多額(チケットノルマと同額かそれ以上)の演奏会協力金を徴収し、チケット(有料)に関しては、各楽員が楽団から必要枚数を貰い受けたうえで(無償で)配っているところがある。この方法など、楽員にとっては資金回収の途(みち)が閉ざされているわけだし、観客にとっては額面の意味が全く不明なうえ当日券を購入した観客だけがバカをみるといった点で、最悪の方法といわねばならない。
チケット販売にはこのほか、プレイガイドやチケット販売代行テレホンサービス業者などに委託する場合と、楽団事務局販売とがある。委託販売に関しては、それぞれの業者が定めるところの契約規定にしたがえばよいだけだが、問題となるのは楽団事務局販売についてである。これは、前もってノウハウを開発しておかなければならない。申し込み方法はハガキなのか電話なのか、電話の場合には留守番録音されたものも扱うのかどうか、入金方法はどうするのか、チケットの扱いは郵送なのか会場引きかえなのか、などなど、決定事項はいくらもある。いずれにしても、顧客にとって簡単かつ明解であり、楽団にとって事務処理が煩瑣(はんさ)とならないことが、手続き上のエラーを未然に防ぐ最大のポイントとなるのである。
チケット販売ではないがそれと密接に関係することに、チケットの価格(入場料金)設定の問題がある。常識的には、総予算から助成金や広告掲載料を控除した額を、会場席数または集客予想数で割った値が理想値である(むろんこの計算には楽団利益は含まれていない)。しかし、まず間違いなく総てのアマオケはこの額を大きく下回る入場料金しか設定していない。最終的には地域社会に受け入れられる料金設定になるのだろうが、長期的には、観客の演奏(本番)に対する価値基準を引き上げる作業や、チケットノルマとの健全な関係を築く作業が、助成金等の増額を図る活動とともに、不可欠となってくることだろう。
◇広報活動
主な広報活動は、パブリシティとPRに分けられる。
パブリシティとは、楽団の提供資料をもとに各種マスコミが取材をとおして報道素材(記事や映像など)を制作し報道するというもので、その主体はあくまでもマスコミの側にあり、その意味で楽団の意図が反映されにくいときもあるが、そのかわりこれにかかる経費は無償である。PRはパブリシティとはことなり有償であるが、そのかわり楽団の意図を直接反映させることができる。
パブリシティ活動で最も重要なことは、地元でいちばん高いシェアをもつ新聞と放送を押さえておくことにある。そして押さえたマスコミ以外には、決してアプローチをかけないことなのである(むろん他のマスコミ各社に「浮気」をしても、おそらく「アマチュアだから」ということで大目に見てはくれるだろうが、しかしいざというときには、一本に絞り込んだときのような協力を得られることはない)。
パブリシティの基本は取材依頼にある。依頼にあたっての必要アイテムを以下に示す。
新聞の場合、持ち込んだ資料だけをもとに記事にする場合もあるし、リハーサルに記者が取材にきて記事にする場合もある。また、ゲストの指揮者やソリストを取材することにより、間接的に公演を知らせる記事にする場合もある。
放送の場合、基本となるのはリハーサルの取材だろう。あらかじめ、楽団のリハーサルスケジュールのうちポイントとなる日(指揮者やソリストのリハーサルが予定されている日など)と取材クルーの予定を合わせ、万全を期して臨むというものである。このほかに考えられる放送報道には、楽団員が放送局にまで出向き「ワイドショー」の催し物コーナーや「地域のお知らせ」の情報コーナーに(生)出演するというものや、楽団提供資料をもとに放送局が独自にまとめたものを報道するというものがある。
新聞・放送メディアによるパブリシティにはこのほかに、読者や視聴者の情報コーナーに投稿するというものがある。このとき、50名様ご招待とかチケットプレゼントとかの付加価値をつけると効果的である。
その他のメディアとしては、自治体の公報誌やミニコミ誌もパブリシティへの利用価値が高い。
PRに関しては、楽団で広告宣伝費を捻出しなければならないため、数多くは実現できないことだろう。そこで考えられるのが、全国的な業界誌へのPR展開である。最もポピュラーなものとしては「音楽の友」誌が考えられるが、この雑誌には公演案内だけでなく楽員募集なども定期的(3〜4カ月ごとなど)に掲載しておくと、時間とともに楽団知名度が全国的に向上し、長期的な効果が期待できるのである。
◇招待状の発送
楽団の賓客名簿にしたがって、招待状を発送しなければならない。
オーケストラ公演の招待状は、常識的にいって招待カードのスタイルをとる。ただ郵送方法を考えた場合、封書に招待カードを同封するか、またはハガキをそのまま招待カードにするかの、どちらかということになる。
記載内容例を以下に示す。
§§ご招待§§ 様 拝啓、○○の候、皆様にはご健勝のこととお慶び申し上げます。 さて、私ども○○管弦楽団では来る○月○日に、下記の通り○○公演を開催する運びとなりました。皆様にはご多忙中とは存じますが、万障お繰り合わせの うえご来場賜りご高評戴きたく、ここにご案内申し上げます。 どうぞよろしくお願い申しあげます。 敬具 ○○管弦楽団 住所・連絡先 代表:○○○○ 記
|
なお封書にて郵送する場合、招待カードのほかにチラシや挨拶文書を同封した方がよい。また招待状の発送は、遅くとも公演1カ月前には終えなければならない。
招待状(カード)発送とは直接関係ないが、招待ということに関してはこのほかに、各種学校や施設の招待や招待券(チケット)の発券という問題がある。
音楽振興や音楽啓蒙などの目的で、楽団の公演に各種学校や施設の児童・生徒を招待することがある。これなどはきわめて社会的に有意義な活動だが、もし配慮のゆきとどいた綿密な企画のもとに推し進めていなければ、どうしても独りよがりとなってしまい、結局、関係者に迷惑をかけるだけに終わってしまうので注意が必要である。
また招待券は、一般入場券(チケット)に「ご招待」のゴム印を捺すだけでよいのだが、このチケットの主たる運用目的は、広告掲載企業や関係機関への配布用ということになる。
◇公演パンフレットの制作
ここでいう公演パンフレットとは、公演プログラムのことである(曲目としてのプログラムとの混同を避けるため、本稿ではあえてパンフレットと表現する)。
さて公演パンフレットは、公演にかかわるモノのなかで唯一、公演後も総ての観客の手元に残るものである。その意味で公演パンフレットの制作には、楽団の大きな精力を注がなければならない。極端な話、上品な公演パンフレットさえ制作しておれば、公演本番での演奏が多少下品であっても、1年後には観客も勘違いをしているものなのである(公演本番に同席していなかった方については、何をかいわんやである)。
アマオケの公演パンフレットには、片面1ページのもの(リーフレット)から数10ページのものまで、さまざまなスタイルのものがある。予算と相談のうえ制作する規格を決めればよいだろう。ただし、基本コンセプトは守らなければならない。
公演パンフレット制作のうえでの基本コンセプトの第1は、先にも述べたとおり品位を保ったものを作ることである。一般聴衆のオーケストラというものへのイメージを、決して損なってはいけないのである。
基本コンセプトの第2は、運用目的と運用方法が確立されているのであれば、楽団インフォメーションの役割をもたせて楽団のプロモート活動に流用できるものを制作することである。たとえば共催や協賛の依頼をする場合、そのために作成した資料に対しては先方も斜(しゃ)に構えるが、前回の公演パンフレットというと素直に目を通すものなのである。その意味で、楽団プロモート上の効果は大きい。
基本コンセプトの第3は、予算上の余裕があれば、開場から開演までと休憩中の読み物が提供できるものを制作することである。友人知人と連れだっていった公演ならばともかく、ひとりきりで演奏会にいった場合、本番前と休憩中は退屈なものである。コンサートに行くからには、暇つぶしの週刊誌などももっていないはずである。そんなとき、公演パンフレットが読むに値するものであれば、このような観客は安堵することだろう。そのためには、一般うけする「読み物」を企画記事として入れておいた方がよい。とにかくアマオケの公演パンフレットにおいて、内輪うけ「しか」しないものがあると興ざめもはなはだしいので、決して記事にしてはならないのである(ただし、内輪うけ「も」するものは、禁止の対象ではない)。
公演パンフレットの主な記載内容を以下に示す。
なお、公演パンフレットの発行部数は、公演会場席数+出演者数+主催関係者数+プロモート活動使用予定数+保存予定数+以上全体の10%である。
◇協賛広告契約
公演における印刷発行物への企業広告とは、紛れもなく「協賛」そのものである。これらの企業は広告掲載するにあたり、(アマチュア楽団の公演における)広告効果をはるかに超える広告掲載料を支払っているのである。これはもう、小さなメセナ活動にほかならないのである。
さて、公演における印刷発行物を制作するにあたり、チラシ・チケットの裏面や公演パンフレットに掲載する協賛企業広告の、広告掲載契約をしなければならない。
契約に要するアイテムには以下のものがある。
契約に先立ち候補企業の選定をしなければならない。これは、オケ公演の雰囲気に調和する企業を選定するためでもあるし、競合する同一業種の複数企業を扱って顰蹙(ひんしゅく)をかったりすることを避けるためでもある。
さて広告契約で最も難しいのは広告掲載料の設定である。設定にあたっては地域の(広告料金の)相場を大きく逸脱してはならないが、かといって印刷コストを下回るようなことがあってもならないのである。また面積単価については大きな扱いのものほど割安にする必要がある。いずれにせよ、楽団主導のもとで両者にとってリーズナブルな相場を形成することが肝要である。
公演を開催するにあたり、公演当日にかかわる各種要員の依頼をしなければならない。ここでは依頼すべき要員の種類と依頼上の要点を述べることとする。
◇エキストラ
公演において、所属楽員だけでは(演奏要員に)欠員が生じるところには、エキストラのプレイヤーを補充することになる。
エキストラとは、紛れもなく戦力である。よってエキストラは、できる限りプロのプレイヤーにお願いするのがよい。ただしプロ・プレイヤーのなかには、仕事上の関係者がいないと手抜きをする者も皆無とはいえないので、できれば指揮者や指導者など(楽団と関係のある)プロの演奏家の方に紹介していただくのがよいだろう。
エキストラを依頼する場合の確認事項は下記のとおりである(ブッキングの際、口頭で確認し、後日、文書にて確認をする)。
なお原則としてエキストラの手配は、公演2〜3カ月前におこなう。
◇ステージマネージャー
公演当日におけるステージマネージャー(ステマネ)は、公演の進行役であり、演出家であり、雑用係であり、指揮者に次ぐ責任者である。
ステマネとは、一般的に多くのアマオケで認識されているよりもずっと重要な仕事である。よいステマネがいると、公演がスムーズに進行し、出演者総てに無用のストレスをためるようなことがないのである。
ステマネには、公演の意図をよく理解できる(公演活動)経験豊富な方にお願いするのがよい。公演進行が複雑なときや経理上の余裕があるときには、プロに依頼するのも建設的な考え方である(この場合は、2〜3カ月前に発注したうえで、何度かの打ち合わせを経て、ゲネプロ・本番の現場をまかせることになる)。このような特別な場合を除くと、普段は楽員のなかから選ぶか楽団OBなど知人関係に依頼することになるのだろうが、その場合も公演1カ月前までには依頼を完了し、楽団が詳細な進行表をステマネに提供したうえで、あらかじめ打ち合わせをしておかなければならない。
なおステマネの業務は、少なく見積もっても公演当日のゲネプロ前から公演終了後の会場解体までであり、拡大して解釈すると搬入(前日の場合もある)から搬出(翌日の場合もある)までということになる。
ステマネは、原則として常に舞台袖に居なければならないので、数人の助手(坊や)をつけた方がよいだろう。またステマネは舞台に上がることも多いので、それなりの服装をしておかなければならない。
◇フロントスタッフなど
フロントスタッフとは、当日券販売係・チケットもぎり係・招待者受付係・クローク係・ドアキーパー等の、会場ロビー等において観客の対応をする主催者関係者のことをいう。公演に際し楽団では、これらフロントスタッフのほかに、カーテンコールの際にステージ上で出演者に花束を贈呈する係(通称「花束嬢」)や、楽屋でのケータリングサービス(湯茶の接待など)をする係など、必要に応じてアルバイト要員を確保しなければならない。
フロントスタッフには特に難解な業務もないので、簡単なマニュアルさえあれば誰にでも業務遂行可能だが、それでも確実性を求めるのであれば、公演活動をしている他のアマチュア音楽団体のメンバーに依頼するのが無難だといえる。依頼時期としては、公演1カ月前といったところ。依頼人数は、運用計画によって異なる。
依頼したフロントスタッフとの確認事項その他を以下に示す。
なお、これらフロントスタッフなどの各種業務の活動時間帯には各々が重複しないものも多いため、たとえば、開場前はケータリングサービスをおこない、開場してからは招待者受付を担当し、開演に際してはドアキーパーを務め、終演間近には花束嬢となるなど、運用計画によっては要員の削減も充分可能である。
公演直前、1週間から10日程度の間に済ませておかなければならない準備作業は、意外と多いものである。この時期の詰めが甘いと、公演当日、出演者の目の前で不備が発覚することもあり、そうなると演奏には直接の関係がないながら、出演者に与える心理的な悪影響はかなり大きなものになってしまうのである。公演直前の準備には、他の時期にもまして万全を期さなければならない。
◇ホール打ち合わせ
公演1週間程度前に、ホールの現場スタッフ(舞台課など)との打ち合わせを義務づけている施設が多い。楽団としても、公演当日のトラブルを避けるために積極的に打ち合わせに取り組む方がよい。
打ち合わせに際しては、前もって下記の書類を作成し、部数増しをして打ち合わせに携行し、ホールスタッフに提出したうえで打ち合わせると効率がよい。
◆進行表(照明計画中心)
◆舞台配置平面図
◆使用器材一覧表
なおこの時点での打ち合わせでは最終案とはせず、公演当日のゲネプロ中にも細部の変更が可能なようにしておく方がよい。
◇公演マニュアルの製作
楽団員やエキストラ、マネージメントスタッフなど、公演関係者にあらかじめ配布する、公演進行台本としての「公演マニュアル」を製作しなければならない。
記載内容の一例を以下に示す。
◆表紙
◆もくじ
◆挨拶文(楽団代表)
◆公演直前リハーサル(前日など)タイムテーブル(1日1ページ)
◆ゲネプロ・タイムテーブル
◆本番進行表
◆プルト表(各曲別舞台配置平面図)
◆楽屋割り平面図
◆注意事項(含本番の服装・緊急連絡先一覧)
◆各会場の地図(公演会場・リハーサル会場・打ち上げレセプション会場)
◆公演後の活動予告
◆集合時刻一覧・奥付(裏表紙)
製本スタイルは、B4片面コピー、袋綴じステープラー(ホッチキス)製本(この段階でB5版)、上記記載内容の場合は全10ページとなる。
この公演マニュアルがあれば、公演直前のリハーサル前後におこなわれる楽員ミーティングを必要最小限にとどめることができるので、出演者(楽団員およびエキストラなど)の拘束時間の削減が図られ、公演に対してプラスに作用するのである。
◇雑務
まず正確を期しておこなわなければならない作業に「謝礼金の準備」がある。指揮者、ソリスト、エキストラ、アルバイト要員用に、金額を間違えず所定の封筒に現金を封入する作業だが、このとき使用する現金は、あらかじめ銀行などで交換した新券を用いたいものである。また、複数項目の出金をまとめて封入している場合には、出金明細も同封すること。経理上領収書が必要な場合には、あらかじめ宛名と金額を記載した領収書(領収者名空欄)を同封しておくとよい。なお、このとき使用する封筒には廉価な祝儀袋などを充て、あらかじめ出演者(領収者)の氏名を記載しておくとよい。
次に挙げられる作業には「案内板等の製作」がある。公演当日、会場入り口に設置される立て看板や、ロビー内の各種受付の案内、楽屋入り口や楽屋ロビーなどに掲示する予定表、各楽屋の使用者名札など、必要に応じて製作するのである。
また公演当日直前に納品されるであろう公演パンフレットの「誤字脱字訂正」も地味だが重要な作業である。ほんらい数回の校正で完璧を期しているはずだが、それでも誤字脱字が発見された場合や、公演直前に出演者の変更があった場合など、訂正を余儀なくされることも多い。訂正の内容によっては、訂正シールを急遽印刷して貼り付けるか、訂正とお詫びのチラシを作成して挟み込むかしなければならない。
公演当日のゲネプロと本番の間などに、出演者およびスタッフに支給する「お弁当の発注」も、重要な作業である。このとき、アルバイト要員まで含めた楽団関係者分以外に、ホールスタッフなどに支給する分も含め、数個の余分がでるくらいの数量を発注しておいた方がよい。
公演当日は、数カ月に及ぶ楽団活動の集大成として、ひじょうに密度の高い1日となる。また音楽活動としても、それまでのリハーサル活動とは異なり、コンサートの本番として特別な時間でもある。この高密度な1日をより充実したものとするために、総ての業務を何の滞りもなく進行させなければならない。ここでは、公演当日のことを中心に論ずることとする。
◇出演者送迎
指揮者、ソリスト、エキストラなど、ゲストとして出演くださる方々の送迎について、完璧を期さなければならない。特に、駅(または空港など)、ホテル、公演会場、レセプション会場など、市内移動も多いことが予想されるので、綿密な計画立案が望まれる。
前もって交通手段の確保と宿泊予約をしておき、到着に際してはどこでお出迎えするのかを明確にしておくこと(公演後お見送りする際も同様)。
いずれの場合も楽団スタッフは、ゲストの(行動上の)リクエストをある程度リサーチしたら、その後はその希望をふまえたうえで行動プランをどんどん提案し、むしろゲストの行動を仕切るくらいの積極性があった方が、ゲストとしてもつきあいやすいものである。
なお市内移動は、経費節約のため楽員の自家用車を用いることも多くなるだろうが、この配車計画にも万全を期さなければならない。また公演当日に限っては、アクシデント回避の面からも、全面的に営業車(タクシー)を利用するような予算を組んでおいた方がよいだろう。
◇器材搬入・仕込み(セッティング)
公演会場への器材搬入に際して重要なことは、余分な器材と思われるものまで搬入することである。殊に、練習時に使用する器材だと規定されているものを持ち込まない(搬入しない)例がよく見受けられるが、そういうものにかぎってゲネプロ時に往々にして必要となってくるものなのである。公演会場の備品のバス椅子よりも普段使用しているものの方がよかったとか、指揮者がいつもの譜面台(練習用のもの)を要求したときにそれがなかったとか、この種の一見合理的な考え方がまねく不首尾の例には、ほんとうに事(こと)欠かないのである。
公演会場への器材搬入も練習時のそれと大きく変わらないが、ただ舞台裏の照明が暗いために、楽器車から積み降ろした器材の整頓がされていなかった場合、思わぬ時間の浪費をしてしまうことがあることや、搬出時に積み残しを出してしまう恐れがあることを注意しなければならない。
さてステージ上の仕込みについてであるが、ここで必要なものには、オーケストラひな壇、平台、パイプ椅子、バス椅子、楽員用譜面台、指揮台、指揮者用譜面台、コントラバスやティンパニなど使用する大型楽器などが挙げられる。
効率のよい仕込み手順は、まずオーケストラひな壇を組み、反響板がセットされた段階で大型楽器を壁(反響板)際(ぎわ)に置き(作業の邪魔にならないようにするため)、次いで指揮台の位置決め(いちばん経験を必要とするところ)をし、さらに弦楽器1プルト目を形成し、それから順次後続プルトとひな壇上をセットアップをしていくというものである。セッティング作業は、必要最小限の人数(4〜5名)でおこなうのが効率的である(民主的なオケにかぎって全楽員で仕込み作業をおこなっているが、これなどはいちばんの愚策だといわざるを得ない)。いずれにせよ最終的な位置決めの作業は、仕込みの責任者(プロオケの場合、ステマネがこれにあたる)がひとりでとりおこなうのがよい。
◇楽屋割り
楽団スタッフは、出演者が会場入り(楽屋入り)をする前までに楽屋割りを完了しておかなければならない。
楽屋割りの基本を以下に示す。
楽屋割りが完了したら、その楽屋割りにしたがって楽屋入り口に(楽屋割り)一覧表を掲示するとともに、各楽屋入り口には楽屋使用者名を表示(一種の表札)しておかなければならない。このとき、指揮者やソリストの楽屋には個人名を、それ以外は資格や立場(たとえば「男性エキストラ」とか「弦楽器女性楽員」など)を表記するのがよい。
ゲストの楽屋入りに関しては神経を使う必要がある。そのわけは、プロの演奏家は楽屋入りの時点で、すでに精神状態が本番に向かっているからである。特に楽屋入り直前には、楽屋の照明やエアコンのスイッチをONにしておくことを忘れてはならない。また楽屋入りをした時点で、楽屋内に公演パンフレット(数冊)やケータリングセットとともに花一輪が置いてあるのも、ゲストの心和(なご)ませるのに一役かうことだろう。
なお楽屋が洋室なのにもかかわらず「土足厳禁」の掲示がある場合には、前もってその掲示に目隠しをしておかなければならない(和舞台専用の劇場でもない限り、土足厳禁を守らせようとする方が国際的に非常識)。
◇ケータリングサービス
ほとんど総ての公演関係者は、公演当日ゲネプロ前から本番終了後まで、実に半日以上も公演会場内から一歩も外に出ないことになる。そこで楽団は、出演者およびスタッフのために飲み物のサービスをするとよい。ケータリングサービスの例を以下に示す。
ただしゲストの個室楽屋に関しては、あらかじめケータリングセットを準備しておき、休憩の度ごとにケータリングコーナーのメンテナンス担当者などが給仕した方がよいだろう。なおケータリングコーナーのメンテナンス担当者は、お弁当の準備についても責任をもっておこなわなければならない。
◇ゲネプロ
ゲネプロ(ゲネラル・プローベ=ステージリハーサル)は、最後のリハーサルであるとともに本番の予行演習でもある。つまり、出演者にとってのリハーサルであると同時に、スタッフにとっても最初で最後のリハーサルなのである。
ゲネプロがはじまる前には、総ての照明調整およびピアノ調律などを、完全に済ませておかなければならない。特にピアノの調律に関しては、ゲネプロ前にソリストがピアノをさらうことも予想されるので、時間的に充分余裕をもって仕上げなければならないといえる(午前中のゲネプロの場合、特に注意すること)。なおピアノの調律は、必ずステージ上でおこなわなければならない(決してピアノ庫で調律させないこと)ので、調律をしている間はステージ上(ステージ裏も)での音出しは厳禁となる。またゲネプロ前にステマネは、ピアニストに使用する椅子の選択をさせなければならない。
さてゲネプロは、指揮者の責任と権限のもとに進められることになる。ゲネプロ中の指揮者の発言や要望や注意は、絶対である。またステマネは、ゲネプロ中においては指揮者のパートナーである。しかし裏方でもあるので、必要なとき以外に表(ステージ上)に出てきてはならない。さらに総ての楽員(その他のスタッフや、ホールのステージスタッフも)は、指揮者とステマネの指示に必ずしたがわなければならない。
さてアマオケの場合には、照明はゲネプロも本番どおりにした方がよいだろう。これは、本番と同じ気温のなかで演奏することを体験した方がよいからである。
ゲネプロ中のスタッフの作業で一番重要なものは、ステージ上の位置決めである。特に、プログラムのなかにピアノ協奏曲などがあった場合、曲ごとに各楽器の配置や指揮台の位置などが大きく変わることになる。だから各曲ごとに、指揮台の位置、第1プルト目の位置、ピアノの脚(あし)の位置、ピアノ椅子の位置などを、ステージ上にマークしていかなければならないのである。これを俗に「バミる(またはバビる)」というが、これには粘着テープ(バミりテープ)と油性サインペンを使用する。バミりテープには、一般的にビニールテープを使用することが多いようだが、実際には布製ガムテープ(梱包用粘着テープ)の方が使いやすいようである。実際の方法については各現場で開発すればよいのだが、要は、ミリメートルの単位で配置を再現できるような意気込みが要求されているのである(実際の誤差範囲は数センチメートル。もしも5センチ違っていたとしたら、関係者の誰かに必ずばれるだろう)。
オーケストラの配置が本番とリハーサルのときとで違っていると、間違いなく演奏に悪影響を及ぼすのである。
ゲネプロ終了後にステマネは、必ずオーケストラ配置のセット調整をしなければならない(このとき、指揮台上のバス椅子など、本番に必要ないものを撤去しておかなければならない)。またゲネプロと本番の間にピアノの調律(微調整)がある場合には、ステージ上が音出し厳禁となる。
◇出演料等(謝礼)の支払い
一般的には、ゲネプロと本番の間に出演料を支払うことが多い(むろん、本番終了直後でも前日でも構わない。あらかじめ口座に振り込んでおくこともある。ただし後日支払う場合には、必ず前もって知らせておかなければならない)。
出演料は、各出演者に個別に(余人を交えずに)支払わなければならない。これは、支払金額もプライバシーにかかわることだからである。指揮者やソリストなど個室楽屋におられる方への支払はこの点について楽だが、問題となるのはエキストラの方についてである。楽団スタッフは、細心の配慮をしなければならないのである。
なお、出演料のことを決して「ギャラ」といってはならず、必ず「謝礼」といわなければならない。
◇公演本番
公演の本番について詳述するときりがないので、ここでは進行上のポイントだけ述べることとする。
さて公演本番を迎えるにあたり、事前に指揮者の指示を仰いで決定しておかなければならないことがある。以下に示す。
ステマネは、開場から終演までの間、出演者に公演の進行状況を知らせなければならない。またステマネは、1ベル直前に指揮者のところまでスコアを受け取りに行き、ステージの指揮者用譜面台にセットしなければならない(休憩後も同様)。
公演の進行状況は、照明の変化によって観客に知らしめることができる。以下に本番における照明プランの例を示す。
公演本番の進行は、何をもってもスムーズでなければならないのである。このことは演奏のクォリティとともに楽団評価の対象となるのである。
◇楽譜回収
公演終了後の楽譜の回収については、以下の方法を採ると比較的回収もれが少なくなる(ただし楽員の意識やモラルの問題が絡むので、効果についてはまちまちである)。
◆公演で使用した楽譜はステージの譜面台上に残しておき、担当者が回収する
◆公演に未使用の楽譜は、各楽屋に設置した回収ボックスに公演後返却する
いずれにしても、楽団ライブラリーの管理方法を開発したうえで、それにしたがってとりおこなうのがよいだろう。
◇バラシ(設備解体)・器材搬出
バラシの概要ははリハーサルのそれに準ずるが、要員の数に関しては公演会場への仕込みのときとはことなり、ある程度大人数の方が効率がよい。
なお公演会場内の小会議室などを翌日まで借りておき、公演終了後に器材を一旦そこに運び込み、器材の館内1泊を実現したうえで翌日搬出することにしておくと、公演直後に関係者全員が打ち上げレセプションなどに参加することができる。
◇打ち上げレセプション
結論からいうとアマオケは、どのような公演であっても打ち上げレセプションを開催した方がよい。
アマオケは音楽集団である前に人間集団であるから、ひとつのものを創り上げた仲間の労をねぎらうのも必要なことだろうし、楽員個人の興味としても公演本番の「事実」や「できごと」を確認したり言葉のうえで公演本番そのものを「追体験」したいという衝動もあるだろう。しかし、アマチュア音楽家にとって打ち上げレセプションの醍醐味は、プロの音楽家と親しく話ができることにあるだろう。むろんリハーサルをとおして話をする機会が何度もあったことだろうが、打ち上げレセプションの場でのそれは、共通の公演体験が前提となっての話である。きっと貴重なヒントなども数多いことだろう(プロの音楽家とアマオケの楽員との関係は、公演前においては「先生と生徒」の関係に近いものになりやすいが、公演直後にはやや「同僚」という関係に近いものとなるためである)。
なお、それなりの規模の公演をしたにもかかわらず打ち上げレセプションを開催しないと「醒(さ)めた楽団」というイメージを与えてしまいやすいので、楽団イメージのためにも素直に開催しておく方が無難だともいえる。
アマオケのマネージメントで意外とおろそかになりやすいのが、この事後処理である。これは公演の終了とともに大きな達成感と終了感を得てしまうことと、公演翌日に最後のゲストを見送った段階で総ての緊張感が失われてしまうところに、その大きな原因がある。密度の高い事後処理は、今後のオケ活動を大きくサポートするものである。
◇各種データの集計および分析
公演アンケートをした場合には、公演後ただちに集計・分析をしなければならない(分析方法が確立していないのならば、アンケートそのものを実施しない方がよい)。分析結果の公表は公演後1週間である。それ以上遅れると、どんなに精度の高い分析結果でも、楽員の公演に対する記憶が薄くなってしまった分、実体験に重ね合わせにくく、そのために今後の活動に反映されなくなってしまうからである。
チケットの半券裏にコードナンバーがスタンプしてあった場合には、観点別の歩留(ぶど)まり調査が可能となる。販売先別の来場率とか、実売価格別のそれとか、いろいろな分析観点でおこなうとよい(ただしそのためには、各楽員がチケットノルマの販売情報を記録しておかなければならない)。このような精度の高い歩留まり情報と公演の環境情報(当日の天候、開演前の周囲の交通状況、前後の日程に地域内で開催された公演情報など)が蓄積されると(最低でも数年分)、集客予想に根拠のある数字が導かれるようになるのである。
◇支払い
時に、支払を公演後に持ち越すことがある。印刷所など、あらかじめ公演後に支払日を設定している場合もあるだろうが、特に公演当日に不測の出費があった場合などには、楽員が立て替えている分も含めてかなりの未払金が残っていることが多い。しかし楽団としては、これら未払金の支払いを早急に済ませなければならない。
健全な経営をするためには、外部の未払金に対しては公演後数日以内に、楽員の立て替え分に関しても1週間以内には支払うべきだろう。これは楽団の信用にかかわる問題だからである。
◇挨拶回り
地元の関係機関には、公演終了後2〜3日以内に楽団代表者が挨拶回りをすること。遠隔地に帰られた関係者(ゲストプレイヤーなど)には、公演翌日に「無事にお帰りになられましたでしょうか」ということをネタにして、挨拶電話をしておくとよい(不在の場合は伝言だけでも可)。ただし挨拶電話はあくまでも速報でしかないため、後日文書でご挨拶申し上げなければならない(挨拶は重複するくらいがちょうどよい)。
◇礼状の発送
公演終了後、遅くとも1週間以内には配達されるように、礼状を発送しなければならない(緊急文書ではないので、決して速達扱いにしないこと)。発送先は、指揮者、ソリストをはじめとするゲストプレイヤー、共催・協賛者、関係機関、その他である。
文面は通り一遍のものでかまわないが、発送先が個人(ゲストプレイヤーなど)で、楽員のなかに何らかの個人的な会話をした者がいる場合には、その楽員の肉声を感じさせるようなコメントも入れておいた方がよい。なおこのようなコメントは、必ず肉筆である必要がある。
◇協賛広告掲載料徴収
公演パンフレットやチケット・チラシに協賛広告を掲載くださった企業などに、掲載媒体(パンフレットなど)と簡単な公演報告書を契約書(控え)に添えて持参し、広告掲載料を徴収しなければならない。常識的には、公演終了後1週間以内、遅くとも2週間以内におこなうこと。
◇会計報告
総ての支払と徴収が終了した時点で、主催者(楽団主催の場合には楽員)に対して会計報告をしなければならない。楽団の経理関係者内では総ての出納簿が明らかになっているだろうが、会計報告として明らかにする場合には、報告先によって項目のまとめ方に工夫をこらし、見やすいものに仕上げなければならない。
◇総括書の作成
楽団の永続性を願い、楽団の発展を希望するのであれば、ひとつのプロダクションごとに「総括書」をまとめるような姿勢もった方がよい。
この総括書はどのようなものでもよい。事後の活動に利用しやすい資料の提供ができるものを作成すればよいのである。事後の活用とは、新たな公演のためであったり、楽団史の編纂の資料であったり、果ては楽員の小さな疑問に対する答であったりするのだが、このような大小のニーズに応えられるようなものが望まれるところである。
楽団の活動日誌があれば総括書作成を楽にするだろう。検討の余地があるといえる。このほか、各種契約書などの資料、会計報告書、発行文書(およびコピー)、出版物サンプル、集計データ分析結果報告書、新聞掲載記事など、関係するものをなるべく多く集め、系統だててまとめることなのである。
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