4.ステージマネージャーの仕事について

 オーケストラ(以下オケ)の活動(練習および公演)において、その演奏環境を直接整備するスタッフに、ステージマネージャー(以下ステマネ)という仕事がある。

 そもそもオケの活動というものは、演奏者だけでは決して成り立たない。演奏者(楽員)以外のいろいろなスタッフが有機的かつ緻密に機能して、はじめて、効率のよい活動が展開されるのである。ステマネとは、このようなスタッフのひとりなのである。

 特にアマチュア(以下アマ)オケにおいては、原則としてオケのメンバーは楽員のみで構成されているために、ともすればステマネの存在をおろそかにしやすく、注意が必要なのである。また、たとえステマネの必要性を認識しているオケであっても、現実的には、オケのメンバーをその要員として割くことが困難なため、たとえ公演当日であっても他の団体などに委託することが多く、その結果、不充分な内容の結果を招いてしまうのである。

 さてステマネとは、出演者のための環境を整備充実するスタッフである。つまり演奏者の不必要なストレスを極力排除して演奏に専念できる環境を作るマネージメントをするのが、ステマネの仕事の総てなのである。

 本稿では、ステマネの仕事について詳細に述べることとする。


4.1.ステマネの仕事の概略

 ステマネの仕事の第1は、オケの現場の環境整備をすることである。楽員にとっていちばん演奏しやすい状況を、彼らに意識させずに整備するのである。よって、ステマネが優秀であればあるほど、楽員にその存在を意識させないのである。またオケの環境整備という観点からは、基本的に練習と公演当日とのスタンスの差はないといえる。

 ステマネの仕事の第2は、公演当日の流れを演出的側面をも含めて滞りなく運ぶことにある。この意味でステマネは、本番中の演出家でもあるわけだから、公演全体をみわたすような視点で公演を進行させなければならない。

 ステマネの仕事の第3は、公演当日に限り、指揮者、ソリスト、楽員など全出演者のマネージャーに徹することである。要するに、必要最低限の指示を出演者に出す以外は、出演者の雑用係に徹するということなのである。

 なお、少なくとも公演当日に関しては、楽員(出演者)によるステマネの兼務は不可である。また、楽団に人員の余裕があるとか、奏者としてでなくスタッフとして入団した団員がいる場合には、練習時から公演当日まで専任ステマネが務める方がよい。


4.2.練習におけるステマネの仕事

 練習時におけるステマネの仕事は、オケの現場の環境整備につきる。この環境整備とは、必要な器材を揃えるだけならば簡単な仕事なのであるが、ひとたび環境整備のクォリティにこだわりはじめると、職人的な能力を要する仕事でもある。


◇搬入・搬出の指揮

 練習の楽器・器材搬入にかかわる仕事は、運搬担当者が会場に楽器車を横付けしたときからはじまる。楽器等器財を荷台から降ろし、荷を解くことがその主な仕事である。練習終了後の搬出にかかわる仕事は、会場出口に雑然と置かれた器財を、パッキングした上で運搬車に積み込むことである。

 アマオケの場合、搬出・搬入要員には、男性若手団員があたることが多い。

 ステマネは、搬入・搬出作業について効率よく指揮しなければならない(運搬セクションのチーフが指揮する場合もある)。


 ◇仕込み・ばらし

 練習会場内でオケの位置を決め、椅子や楽器・譜面台などを並べて、いつでもリハーサルがはじめられるようにセットアップすることを「仕込み」という。またその逆に、練習終了後、会場をもとどおりにすることを「ばらし」という。

 仕込み時にはステマネが現場監督をすることになる。それは、必要な椅子の数、必要な譜面台の数、必要な楽器の種類、そしてそれらの並べ方などを、充分把握した担当者がいないと仕込み作業が滞るからである。よってステマネは、あらかじめシートプラン(練習会場内での座席配置の計画)を充分把握しておかなければならないのである。

 さて練習会場は公演会場のステージとは異なり、必ずしもオケの布陣に適した大きさや形をしてはいない。そこでステマネは、練習会場の「どこの位置」に「どちらの向き」でオケをならべるのかを、決定しなければならない。これは、先に述べた会場の大きさや形のほか、天井高や音響特性などによっても条件が異なってくるのだが、原則的にはオケの前方(指揮者の背後)に大きな空間ができるように(金管楽器の背後が壁になるように)セットアップするのが望ましいといえる。

 さて仕込みがほぼ完了したら、ステマネは(ひとりで)最終調整をする事になる。つまり、指揮台と弦楽器の第1プルトとの位置関係、隣あう椅子と椅子との間隔、プルト間の距離、楽員用譜面台の高さ、指揮者用譜面台の高さ(優秀なステマネは、オケが招聘している各指揮者の譜面台の高さの好みを、完璧に把握しているものである)、指揮者用バス椅子の高さ(譜面台同様)などを、こだわりをもって微調整するのである。職人的なステマネになると、各プレイヤーが自分勝手に椅子などを動かすことを、極端に嫌うものである。これは逆にいうと、オケとして使いやすいような条件を完全に満たして仕込んでいるとの自負が、このステマネにはあるからなのである。

 このほか、指揮者用譜面台の足元に1脚のパイプ椅子を設置し、指揮者用の荷物置き台として提供したり、協奏曲などのソロ合わせの折には、ソリスト用譜面台、ソリスト用ピアノ椅子やパイプ椅子、ソリスト用荷物置き台としてのパイプ椅子などを準備しておく必要がある。

 ばらしに関しては、ステマネもしくは(任意の)責任感のあるチーフ(安全管理ができ、ある程度の人望のある者)が中心になっておこなうことになる。

 以上、仕込みとばらしは搬入・搬出と一連の作業となるので、その要員もほぼ同じく男性若手団員が務める、というパターンがアマオケの場合多い。なお要員数はせいぜい10名前後、多くとも15名ほどといったところだろう。多すぎると邪魔である。

 なお、上記の搬出・搬入、仕込み・ばらしの要員は、公演当日のスタッフの中で唯一、一般楽員(演奏者)が兼務することのできる仕事である。


4.3.公演におけるステマネの仕事

 公演においてステマネは、ステージスタッフを指揮して、公演が滞りなく進行するようにマネージメントをしなければならない。

 さてこのステージスタッフとは、公演の主体を円滑に進行させるスタッフで、その主な活動エリアは、ステージ上およびステージ袖(そで)である。また活動時間は、楽器搬入から搬出までの、公演会場を使用する総ての時間にまで及ぶのである。

 なおステージスタッフは、出演者がオン状態(本番に向けての臨戦態勢)のときに接するなど、緊張感の高い場面をマネージメントするスタッフである。ステージスタッフの小さなミスが楽員の大きなストレスとなり、演奏に悪影響を及ぼすこともあるので、細心の注意が必要である。


 ◇搬入・搬出の指揮

 公演当日の楽器・器材搬入にかかわる仕事は、運搬担当者が大道具搬入口に楽器車を横付けしたときからはじまる。楽器等器財を荷台から降ろし、荷を解くことがその主な仕事である。終演後の搬出にかかわる仕事は、搬出口に雑然と置かれた器財を、パッキングした上で運搬車に積み込むことである。

 アマオケの場合、ステージスタッフ以外の搬出・搬入要員には、男性若手団員があたることが多い。

 ステマネは、搬入・搬出作業について効率よく指揮しなければならない(運搬セクションのチーフが指揮する場合もある)。


 ◇仕込み・ばらし

 ステージ上にひな段を組み、椅子や楽器・譜面台などを並べて、いつでもリハーサルがはじめられるようにセットアップすることを「仕込み」という。またその逆に、終演後、公演会場をもとどおりにすることを「ばらし」という。

 仕込み時にはステマネが現場監督をすることになる。それは、必要な椅子の数、必要な譜面台の数、必要な楽器の種類、そしてそれらの並べ方などを、充分把握した担当者がいないと仕込み作業が滞るからである。よってステマネは、あらかじめシートプラン(ステージ上での座席配置の計画)を充分把握しておかなければならないのである。このときステマネは、公演会場の音響特性などを考慮にいれたうえで、ステージ上のどの位置(奥、中間、前方など)にオケをならべるのかを、決定しなければならないのである。

 さて仕込みがほぼ完了したら、ステマネは(ひとりで)最終調整をする事になる。つまり、指揮台と弦楽器の第1プルトとの位置関係、隣あう椅子と椅子との間隔、プルト間の距離、楽員用譜面台の高さ、指揮者用譜面台の高さ、指揮者用バス椅子の高さなどを、こだわりをもって微調整するのである。

 ばらしに関しては、ステマネもしくは(任意の)責任感のあるチーフ(安全管理ができ、ある程度の人望のある者)が中心になっておこなうことになる。

 以上、仕込みとばらしは搬入・搬出と一連の作業となるので、その要員もほぼ同じく男性若手団員が務める、というパターンがアマオケの場合多い。なお要員数はせいぜい10名前後、多くとも15名ほどといったところだろう。多すぎると邪魔である。なお、上記の搬出・搬入、仕込み・ばらしの要員は、公演当日のスタッフの中で唯一、一般楽員(演奏者)が兼務することのできる仕事である。


 ◇打ち合わせ

 ステマネは、楽団など公演主催者の意向をもとに、公演の最高最終責任者である指揮者と公演の進行に関する打ち合わせをして、最終的な主催者側のプランを決めなければならない。またそれを、ホールスタッフ(会場の舞台職員、または会場が委託契約している業者スタッフ)に伝達するための打ち合わせをしなければならない。このとき、主催者側プランがホール側の事情で受け入れられない場合には、指揮者とホールスタッフの間を何度も往復して、調整をしなければならないのである。

 なお、打ち合わせ事項の主なものは、以下のとおりである。


 ◇ゲネプロ(ゲネラルプローベ=ステージリハーサル)

 ステマネは、ゲネプロの間に本番に向けての準備をしなければならない。

ここでいちばん重要なことは、それぞれの演奏曲別に指揮台や譜面台をバミる(ステージ上に譜面台の位置などをマークする)ことである。例えば指揮台の角や譜面台の足、1プルト目の椅子やピアノの足などの位置を、俗に「バミりテープ」と称されている布製のガムテープやビニールテープをステージ上に貼ることにより(必要に応じ、油性ペンなどで何のマークかをテープ上に書くこともある)、最終的な決定位置をマークしていくのである。これによりセットチェンジを、確実かつすみやかにとりおこなうことができるのである。

 さてゲネプロの時間はむろん演奏者のためにあるのだから、この間ステマネは、ゲネプロが効率よく進行するためのマネージメントをしなければならない。またそれと同時に、演奏者の雑用係にも徹しなければならないのである。つまり、常にゲネプロの進行の少し先を想像し予想をし、先回りをして必要な物品の準備をしておくことなのである。そして最大限、出演者のわがままを実現してあげることなのである。


 ◇最終確認(ゲネプロ終了から開場まで)

 まず、ゲネプロ終了後の楽員ミーティングにおいて、必要に応じステマネから楽員への最終伝達をおこなう。

 さてミーティング終了後、開場直前までのステージ上は、楽員が自由に楽器をさらうことのできるスペースとなる(ピアノ協奏曲などがプログラムにある場合には、ピアノ調律のため時間となり、楽員の音出しは厳禁となる)。この間にステマネは、プログラム第1曲目のセットアップを、改めてすることになる。要するに、プログラム第1曲目に必要な譜面台・椅子・楽器の数および位置を、再確認することなのである。そしてこのとき注意しなければならないのは、ゲネプロで指揮者が使ったバス椅子が指揮台の上に置き去りにされていないか、という点なのである。意外とエラーをきたしやすい点なので、注意が必要である。

 次に開場予定時刻1〜数分前に、ステージ上でさらっている楽員に退場を命じ、その上での最終チェックで問題がなかった場合には、ステマネは、フロント(ロビー)マネージャーと楽屋マネージャーのチーフに、開場の合図を出すことになるのである。


 ◇本番(開場から終演まで)

 開場の指示を出し開場したらそれ以降開演まで、更には途中の休憩の間、出演者に対して「進行状況の報告」をすることになる。そしてこのとき「楽員へのスタンバイ合図」も並行して行うとよい。方法としては、楽屋モニタースピーカーを通して行うか、楽屋廊下で(肉声で)伝えることになる。報告内容は「開場いたしました」「開演15分前です」「開演10分前、1ベル5分前です」「まもなく1ベルです。出演者は舞台袖に集合してください」「1ベルが入りました」「まもなく開演いたします」および「休憩残りあと10分です」「まもなく1ベルです。出演者は舞台袖に集合してください」「1ベルが入りました」「まもなく再開いたします」など。なおこれらの報告および指示は、注意していれば聞こえる程度の小音量で行うことが肝要であり、決して(本番に向けてコンセントレーションを高めている)出演者の集中力を乱すようなアナウンスをしてはいけないのである。またこれらの報告および指示は、ステマネの指示のもと、楽屋スタッフがとりおこなってもよい。

 さて「開場いたしました」「開演10分前、1ベル5分前です」の報告は、指揮者にも(第1曲目が協奏曲の場合にはソリストに対しても)個別にしなければならない。ステマネの指示のもと、この連絡を直接担当するのは、ステマネ助手か楽屋スタッフの付き人だろう。特に「開演10分前、1ベル5分前です」報告の折には、着替えなど「指揮者スタンバイの確認」をし、その上で「スコアセッティング」のため、指揮者からスコアを預かるのである。なおこのスコアは、1ベル前後にステージスタッフが指揮者用譜面台にセットすることになる。

 さて種々の理由から、開演時間を押す(遅らせる)ことがありうる。例えば出演者の準備が遅れているとか、開演間際の客足(きゃくあし=後述)が途絶えていないとか、その理由はさまざまである。このとき、1ベル前ならば「5分(最大でも10分まで)押し」、1ベル後ならば「2分(最大でも3〜4分まで)押し」などと、開演押しの決定を出演者や各スタッフに通告することになる。そしてその上で「1ベル(予ベル)合図」を出し、更には、出演者(指揮者・ソリストを含む第1曲目の出演者)総てが舞台袖に待機していることを確認した上で「本ベル(2ベル)合図」を出すことになる。

 本ベル後ライティングの指示を終えたら、楽員に対し「舞台上下(上手と下手)袖からのオンステージ合図」を出す。演出効果としては、なるべく上下同時に入場をはじめ、上下同時に入場を終えるのが好ましい(上手側の方が大型楽器が多いため、どうしても入場し終わるまでの所要時間がかかりやすい。またコントラバス奏者は、バス椅子に腰を降ろしてから楽器をかまえるまで、更に時間がかかることになる)。

 さて、全楽員がステージ上で所定の位置に落ちついたら「コンマスの入場」である(楽員と同時にコンマスが入場している場合や、開場の時点で楽員が板付いている場合を除く)。コンマスに入場の指示を出し、コンマスがステージ上を歩きはじめたら、必要に応じて「拍手の先導」をする。つまり舞台袖から拍手をし、観客の拍手を促すわけなのだが、あまり派手にやりすぎると一部の観客の反感を買うので、あくまでも節度を守ることが肝要である。なお拍手の先導は、指揮者やソリストの入場に際しても同様である。

 コンマスが入場しチューニングを終え、客席のざわめきが潮が引くようにおさまって、会場全体が水をうったように静かになったら、「指揮者やソリストの入場」となる。実は、このタイミングがいちばん難しいのである。チューニングの音がおさまって静寂がおとずれると、それから徐々に会場の緊張感および期待感が高まってくる。そしてそれが今まさに頂点に達したときに、指揮者・ソリストの入場を迎えるのが、理想的なパターンなのである。しかし、この会場の緊張感および期待感は、徐々に高まり続けて頂点に到達したあとは、急速に冷えてくるという特徴がある。入場のキュー(合図= Cue)を早く出しすぎると、会場の空気は熟していないし、ほんの少しでも遅すぎると、完全にハズシてしまうのである。この頂点を見極めるという作業は、ほんとうに難しいのである。

 さて第2曲目が協奏曲などの場合には、第1曲目の演奏が終わりに近づいたときに「ソリストのスタンバイ」を指示しなければならない。このタイミングもなかなか難しいものがある。まず第1曲目の演奏終了から第2曲目の開始までの所要時間(セットチェンジを含む)を計算し、更にスタンバイ指示を出してからその曲(第1曲)が終わるまでの時間を計算し、この両者を足した時間がソリストにとって、いちばん心地よいものとなる必要があるのである。しかしここで問題となるのは、この両者を足した心地よい時間というものはソリストによって個人差があるのだが、その個人差があまりにも大きいということなのである。ソリストによっては、第1曲目の途中から舞台袖に待機していたいという方もいるし、なかには、楽屋から舞台袖に移動した歩調を止めずにそのままステージに進みたい(つまり第2曲目の演奏寸前)という方もいるのである。標準的に考えるならば、第1曲目の最後数小節になった頃に、ソリストが舞台袖に現れるようにするパターンを想定するのがよい。しかし、いずれにしてもこの件に関しては、あらかじめソリストに確かめておくのが無難だろう。例えば「いつ頃スタンバイのお知らせを致しましょうか」など。

 演奏曲目がかわるたびに「セットチェンジ」をしなければならない。はっきりいってセットチェンジとは、楽員にとっても観客にとっても余分な時間である。だから所要時間は最小限にとどめなければならない。そもそも、そのためにゲネプロでバミっているのである。楽員や観客の注目のなか、とりおこなうセットチェンジは、迅速かつ完璧でなければならないのである。

 各曲演奏終了直後または公演終了直後には「もどし(戻し)」の作業がある。戻しとは、スコアや花束、ハンカチ、スペアの指揮棒などを、指揮者やソリストに返すことを指す。特に公演終了直後はバラしと同時になり、取り紛れやすいので注意する必要がある。


 ◇ライティング

 オケの公演は、紛れもなくコンサートであり決してショーではないのだから、そのライティングはというと複雑なわけでも厳格なわけでもなく、更には中心的な演出技法でもないといえるのである。しかし、あくまでもわき役の演出技法だからこそ、効果的に行うと大きな意味がでてくるともいえるのである。

 オケの公演におけるライティングは、夜間の室内照明と同様の単なる明かり取りと、控えめな演出手段という2つの基本機能のほか、副次的ながら観客への予告手段としての側面を持つ。例えば、ステージ明かり(照明)が燦然(さんぜん)と輝くと、観客はまもなく開演であることを知るのである。この予告手段になり得るという機能を、効果的に使うとよい。

 ライティング運用の上での注意としては、原則として明かりが残る方向で運用するということが挙げられる。例えば舞台と客席の照明を、一方は明るく一方は暗くするときには、ほぼ同時であることを念頭に置きつつも明るくする方を優先するのである。とにかく会場全体が、一瞬であれ暗黒になることを避けるのである。

 さて、ライティングのパターンは幾通りも考えられるが、以下に、代表的な例を解説しながら述べることとする。

  1.  開場舞台0%&客席 100% 開場した時点で客席がフル照明なのは当然だが、舞台照明に関してはあらゆるパターンが考えられる。舞台が客席同様フル照明でもかまわないのである。ここに示した舞台暗転のパターンは、緞帳(どんちょう)と同様の効果をもたらす。つまり観客に、ホールは観客のためだけの空間と認識させ、観客に不必要な緊張感をいだかせないという利点がある。
  2.  本ベル舞台 100%→客席50% この時点の照明プランにも多様性があるが、ここに示した照明パターンにおけるポイントは2つある。第1点目は、チューニングをフル照明のもとで行うということである。照明の強さにより、舞台上の気温は大きく変化する。プロオケならば、照明が変わっても臨機応変にチューニングの微調整をするが、アマオケの場合には、本番同様の照明の中でチューニングするのが無難なのである。第2点目は、客席を暗転にしていないことである。この理由は、次の3で述べる。
  3.  チューニング終了(舞台 100%)客席F.O.0% ここでとられている方法は、チューニングが終了してホールに静寂が訪れると、客電(客席照明)を徐々に暗転する(F.O.=Fade Out)パターンである。この方法を用いると、フェイドアウトするにしたがって客席のざわめきも静まるのである。これは、ライティングの予告効果の最たるものである。例えばクラシックコンサートに不慣れな観客にとっては、無意識の内に鑑賞する姿勢に入ることができる、極めて自然な方法だともいうことができる。
  4.  セットチェンジ開始客席50%→舞台50% これは「セットチェンジは見られてもかまわないが、大っぴらに見せるものではない」との考えに裏付けられている(舞台50%にダウン)。更には「セットチェンジの間は舞台に注目せず、パンフレット(プログラム)でも読んでいてください」との考えにも裏付けられている(客席50%にアップ)。
  5.  セットチェンジ終了舞台 100%→客席50% ここは2と同様。
  6.  チューニング終了(舞台 100%)客席F.O.0% ここは3と同様。
  7.  休憩客席 100%→舞台0% ここは1と同様。
  8.  本ベル舞台 100%→客席50% ここは2と同様。
  9.  チューニング終了(舞台 100%)客席F.O.0% ここは3と同様。
  10.  カーテンコールの終盤(舞台 100%)客席F.I. 100% カーテンコールのラスト1を指揮者が告げたり、ステマネがラスト1と判断したときの有効な方法。指揮者がラスト1のオンステージをしはじめたときに客席照明をフェイドイン(F.I.= Fade In)するのだが、これにより観客は現実的世界に還(かえ)って来るのである。そして同時に、無意識の内に最後のカーテンコールであることを、観客は知るのである。
  11.  終演舞台0%&客席 100% ここは1と同様。

 ◇公演当日におけるステマネの役割

 ステマネは、ステージスタッフの最高責任者であるとともに、裏方(公演スタッフ)全般の最高責任者でもある。主に公演の進行と演出を担当するのだが、ステマネは出演者の状況と観客の流れを常に把握した上で、臨機応変に適切な指示を瞬時に出さなければならないのである。そのためには、前もってモデルプランを想定し、更にそれの考えられる総てのヴァリエイションを洗い出した上で、シミュレーションしておくとよいのである。

 ステマネは原則として公演当日、小屋(演奏会場)に入ったときから退館するまで、常に舞台(下手)袖から動かないでいることである。公演当日には、予期せぬ問題が生じやすく、その都度ステマネに問題が持ち込まれてくる。また、それ以外の雑用やクレームも集中する。そしてステマネは、これらの問題の総てを受けとめなければならないのである。それは、ステマネは裏方(出演者や観客への助力に徹する役目)の最高責任者だからなのである。しかし、出演者がクレームをステマネに持ち込んできたとき、ステマネが所定の場所にはおらず、所在も明かではなかったならば、この出演者はクレームで抱いたストレスをうわまわるストレスを抱え込むことになるのである。裏方は、決して(出演者にストレスを抱かせるなど)演奏にマイナスになるような要因を与えてはいけないのである。そのためにもステマネは、出演者やスタッフに定位置(ステージ袖)を明らかにし、たとえ短時間でも持ち場を離れるときには、助手を代わりに立てておく必要があるのである。またその助手とは、いつ何時(なんどき)でもただちに連絡が取れるような態勢を作っておかなければならないのである。

 さて今も述べたように、ステマネには助手(ときに「坊や」と称する)が必要である。常識的に考えると、助手は2名くらいが何かと便利である。そしてこのとき、助手のうちの1名を舞台上手袖に配しておき、ステマネ指令をインカムなどを通して、上手袖にスタンバっている出演者に伝えたりするのである。また、常にステマネのそばにいる(下手袖が定位置の)もうひとりの助手は、必要に応じて伝令として会場中を走り回るのがその主な仕事となるのである。

 さてステマネはこのほかにも、公演にかかわっている業者などを統括しなければならない。対象となるのは、録音スタッフや写真撮影業者、ビデオ業者などである。これらの業者が会場入りをした時点で、必ず責任者として打ち合わせをしておく必要がある。もっとも、常識的な範囲内においては各業者に総て委せるという形でよいのだが、もしもゲネプロや本番の途中で、トラブったりトラブルが予想されたりしたときには、ステマネは業者に対し適切な注意をしなければならないし、最悪の事態に際しては、業者に対して退去を命ずることもあり得るのである。

 なおステマネおよびその助手(ステージスタッフ)は、公演中(セットチェンジなどで)ステージ上に出ることも多いので、ジャケットを着用するなど、服装には気を配ることが必要である。また、演奏中に舞台裏を移動する必要があるところから、使用する靴も足音がしにくいものにするなどの配慮が必要なのである。


 ◇事前の準備

 ステマネは事前に、公演当日の詳細な進行マニュアル(ライティングプランが中心)を作成しておく必要がある。作成部数は3〜10部程度。さて公演当日の指揮者や会場スタッフとの打ち合わせにおいては、この進行マニュアルを原案として打ち合わせを進めていくことになるのだが、最終的にはその場で変更する可能性もでてくるので、変更事項の書き込みができる程度の余白を持つ印刷物にしておかなければならないのである。

 このほかにも、曲別のシート表(舞台配置平面図)の作成や、各器材の必要数の洗い出し(パイプ椅子やバス椅子の必要台数、ピアノ椅子の種類と必要台数、譜面台数など)等をしておかなければならないのである。


4.4.その他

 公演スタッフの種類には、ステージスタッフ、フロント(ロビー)スタッフ、楽屋スタッフがあり、それぞれにはチーフとしてのマネージャーがいるが、これらマネージャーのうち、指令形態の上ではステマネが最高責任者であり、ロビーマネージャーがこれに次ぐことになる(これら公演スタッフは、公演の最高最終責任者である指揮者の支配下にあるともいえる)。ステマネは、各部署のマネージャーとの緊密な連絡が求められている。それは、公演全体がスムーズな流れのなかでとりおこなわれるためなのである。このためのスタッフ用アイテムとして、トランシーバーやストップウォッチ(各マネージャー用に各3台ずつ)が挙げられるのである。

 またステマネ(およびロビーマネージャー)は、原則として所定の場所を動かないことが求められる。それは、何らかの不測の事態が訪れた際、各部署の最高責任者である彼らの所在を、八方手をつくして捜すという時間的なロスを、最小限にとどめるための工夫なのである。

 さて、ゲネプロ終了後本番までに食事をとる場合がある。このとき、楽員等出演者がレストランなど館外で食事を済ませていても、公演スタッフに関しては、あくまでも館内において、例えばお弁当などで食事を済ませていることが多い。これは、ゲネプロと本番の間の時間は楽員にとっての休憩時間であるが、公演スタッフにとってはそうではなく、この間の食事はあくまでもオンタイム中の食事なのであり、だから持ち場を離れないために弁当などを用いて館内で食事をしているというわけなのである。

 また主催者が、会場のスタッフ(ホール職員)にお弁当を届けたりするのは、決して「つけとどけ」だとか「差し入れ」だとかの意味ではなく、職員として食事休憩をとる正当な権利を放棄していただき、その上で(オケのために)館内でスタンバってもらうための、保証のようなものなのである。


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