7.ゲスト応対の方法について
向上心にあふれるアマチュアオーケストラ(以下アマオケ)は、何らかの形でプロの音楽家の指導や助力を仰いでいる。それは、あるいは指揮者であったり、ソリストであったり、トレーナーであったり、エキストラであったりするのだが、このときオケのスタッフは、アマチュアという立場をわきまえた上で、これらプロの音楽家に接してゆかねばならないのである。要するにアマオケの楽員は、アマチュアとはいえども音楽界に属しているのだから、音楽界の常識をわきまえた上で、これらプロのゲストに対応してゆかねばならないといえるのである。以下に、渉外活動の上で最も注意を要する、プロの音楽家(以下、しばしばゲストと表記)との接し方について述べることとする。
アマオケがかかわるプロの音楽家について、以下に、それぞれの意味と立場をあきらかにしながら述べる。なお前もって述べておくが、オケに与える影響力の大きさ(同時に責任の大きさ)は、指揮者、ソリスト、トレーナー、エキストラの順であり、同時に指示や指令の重要度もこの順である。
◇指揮者
まず極論をいうならば、指揮者とはオケの専制君主である(むろん一定の枠のなかでの話なので、決して、指揮者は暴君だといっているわけではない)。更にアマオケにおいては、指揮者との間に「アマとプロ」という隔絶したレベル差も存在するのだから、アマオケは、ほぼ全面的に指揮者の指導する方向で問題を解決すべきだといえるのである。
さて指揮者とは、リハーサルにおける指導上の最高責任者であり、公演における最高最終責任者であるといえる。だから指揮者の指示や助言は、指導上の、演奏上の、演出上の、最大の指針となるのである。
また指揮者は、音楽的責任を全うするために、またはオケの規範づくりのために、音楽とは直接かかわらない分野においてもしばしば助言や指示を出すことがある。これは音楽の環境整備のためであり、オケの環境整備のためであるのだから、音楽的な指示ではないからといっておろそかにしてはならないのである。
指揮者がオケにとって、音楽監督や常任指揮者など長期的にかかわる場合と、客演指揮者のように短期的にかかわる場合とで、接し方がやや異なることになる。長期的な場合には、環境整備の問題も含めて指揮者の指示や助言が多くなるが、その分、オケのスタッフとともに現状をふまえてのすり合わせにも期待がもてる。要するにオケ側も、わがままがいいやすいのである。それに比べて客演指揮者の場合には、指揮者からの指示などは少なくなるかわりに、いったん指示が出た以上、万難を排して実現に努力しなければならない、ということになるのである。
◇ソリスト
公演における「華(はな)」である。そして、公演において自ら音を出す(演奏する)最大の音楽的個性である。
オケはソリストに対して、演奏以外ではいっさい気を遣わせないくらいの配慮が必要である。表現をかえるならば、オケはソリストに対して、さりげなく「いたれりつくせり」をするのである。
またソリストの要望は、可能な限りかなえなければならない。
◇トレーナー
本来トレーナーは、指揮者のスタッフである。たとえ契約形態が異なっていてもである。それは、指導者であるトレーナーに対して指揮者は、指導上の最高責任者だからなのである。
パーマネントのトレーナーがいるアマオケに客演指揮者が登場したときに、この点での混乱が起きやすい。要するに、客演指揮者の発言よりも古株のトレーナーの発言の方が、重きをなしてしまうのである。これは指揮者にとっても楽員にとっても、更にはそのトレーナーにとっても不幸なことなので、オケのスタッフを中心に関係者は気をつけなければならない。
トレーナーは、指揮者の示した方針のなかできめ細かな指導をする役であり、楽員はトレーナーの指示や助言に対して(それが指揮者の方針と調和している限りにおいては)最大限、実現するように努力しなければならない。
◇エキストラ
エキストラ(トラ)とはオケにおいては戦力である。だから、戦力とならないトラは不要である。要するにトラは、ごく短期的に集中する技術者なのである。
なお依頼するトラは、指揮者やトレーナーなどに紹介していただく方が、より責任感の強い人材が集まる傾向にある。
アマオケの楽員は、プロの音楽家(ゲスト)とかかわる際、スタンスを明確にした上で下記のことに注意してつきあわなければならない。
◇ゲストとのかかわり方
アマオケが、あるプロの音楽家とかかわりを持つ場合、まず最初に「雇用する権限」がアマオケの側に生ずる。要するに、両者のかかわりの原点に属する第一義的権限は、アマオケの側にあるのである。だからこそ、両者がかかわりはじめてから生ずる第二義的権限とそれ以降の権限は、プロの音楽家の側になければならないといえるのである(両者間の最終権である解雇権は、アマオケの側にある)。
簡単に述べるならば、ゲストの指示や助言は可能な限り実現する方向で検討し、それでも大きな不都合が生じる場合にはそのゲストをクビにすればよい、ということなのである。だから、そのゲストとかかわっている常態のなかでは、細大もらさずその指示を仰がねばならない、といえるのである。アマオケの楽員にとってこれらのゲストは、一般企業における上司のようなものなのである。
◇応対の基本
応対の上での基本は、情報が両方行に確実かつ円滑に流れるように努めることである。まず、ゲスト発信の情報についての対応の仕方から述べることにする。
ゲスト発信の情報についての応対の上でまず注意しなければならないのは「ひと(ゲスト)の話をよく聞くこと」である。決してひとの話の大意(たいい)を聞くというのではない。いささか漠然とした比喩になるが、「32.2」という数字は決して「およそ30」でも「32より大きく33より小さい」でもなく、唯一の答は「32.2」であり、それ以外は全くの誤りなのである。最初は何度も聞き返してよいから、とにかく微妙なニュアンスまで聞き取るのである。何度も聞き返すのは確かに失礼だが、間違って聞き取るのは更に失礼なことなのである。
次に注意しなければならないポイントは、いま聞き取ったゲスト発信の情報を、要約した上で「復唱」することである。これは、ゲストとの情報を共有する上で重要な点である。それは、各々の思い込みやひとり合点による誤解から、両者ともに開放してくれるからである。更にこのとき、コマンド(指令)に対する可否や、それの完了期限や担当者などについて、はっきりさせておくとよい。またこの後「確認書」としての要約メモを作成し、両者各1通ずつ持つようにすると万全である。
さてオケのスタッフは、後日これらのコマンドに対する「報告」をしなければならない。それは、結果報告であったり中間報告であったり、ときには失敗報告であったりするわけだが、とにかく確実に何らかの報告をしなければならないのである。実をいうとスタッフのエラーは、この報告義務をうっかり怠ってしまうという点において多いのである。極端な話、完璧に仕事を完了したが報告していなかった場合よりも、失敗しつつも中間報告をこまめに入れていた方が、信頼度において大きな成果があがるのである。これは、ゲストとスタッフの間でいちばん大切なことは、仕事の能力であることよりも人間的な信頼関係である、ということを示唆している。
なおスタッフ発信の情報については、必ず口頭と文書の両方によるものとすると万全である。
◇情報の責任所在とその留意点
スタッフが得てして起こしやすいミスに「ゲスト発信情報の意訳」というものがある。
ゲスト発信情報の責任は、当然のことながらゲストにある。そしてこのとき、責任と同量の権限もゲストの側にある。ゲストは、責任を持って情報を発信しているのである。ところが情報の大意しかくみ取らないスタッフ(前出)は、オケ内で情報の再発信をする際に、この情報を(無意識のうちに)アレンジしてしまうのである。
さて、ゲストがある情報を発信する際には、必ず、その情報発信の根拠や背景が存在している。オケのスタッフがゲスト発信の情報を受信したとき、その根拠や背景をある程度理解しようと努める姿勢は、基本的には正しいといえる。しかしながら、それをもって判断材料とし、挙げ句に、ゲスト発信情報を新たな情報に加工したりしてはいけないのである。
情報をアレンジしてしまいやすいスタッフは、ほとんどの場合、情報を加工したという自覚がない。それは「A」という情報を「A’」として再発信した際、ほとんどの場合「A=A’」と考えているからなのである。ところが、情報を発信したゲストは「A’ではなくA」であるところに重きを置いていたりするのである。確かに根拠や背景を理解しようとするスタッフの姿勢は正しいのだが、しかし最終的には、しょせん無理な話でもあるのである。その理由は、ゲストの判断には客観的な理論以外に「経験的な勘」が働いているからなのである。そしてその勘は、決して説明できないものだからなのである。
◇連絡の方法
ゲストとの連絡は、そのほとんどを電話で行うことになる。そしてこのときゲストに電話連絡をするスタッフは、団体(オケ)を代表する個人としての立場で電話をすることになる(団体を代表する機関ではない、ということ)。よって、電話で自己紹介する際にも「○○オケの○○と申します」と個人名まではっきりと述べることが必要なのである(決して「○○オケの者です」とはいわないこと)。
さてスタッフは、電話に先立って要点をメモしておくことが必要である。これは、電話によっておこるゲストの時間拘束を、最小限にとどめるためである。そして電話の最初に用件の件数を明示することも必要である。
また電話で用件を伝え終わったあとで、更にもういちど、用件の項目だけを最終確認しておくとよい。このほか、ゲストの側からの要望や指令があったときには、それらを要領よくメモにまとめ、これについても最後に確認しておくことが必要になってくる。
さて電話連絡が完了したら、その内容を文書にして「確認書」を作成しなければならない(なおこの確認書は、自署サインさえあればワープロなどによるビジネス文書の形でもかまわないものとする)。この確認書は、速報の形でFAX送信し、それが終わったら封書にて郵送することになる。また確認書の内容が、たとえば翌日の件の連絡など郵送に時間的余裕がない場合には、当日その場での手渡しにしてもよい。このとき注意しなければならないのは、FAXはあくまでも予備手段であるという点である。
なお電話をかける時刻についてだが、常識的にいって午後10時までに最初の電話をかけておいた方が無難だろう。ただし、不在だったり留守番電話になっていた場合にはこの限りではない。後刻(30分後など)電話する旨を伝えておけば、深夜まで電話可能な場合もある。しかしこの場合にも「後刻電話します」のメッセージは2〜3回までとし、最後の電話のときには「お電話ください」のメッセージにするべきだろう。なおデイタイムの電話に関しては、相手が音楽家であることを考えると、午前10時以降が無難であるといえる。
アマオケがプロの音楽家とかかわる際に、両者の間でまず最初にとりおこなわれるのが「契約」である。契約といっても何も難しいことではなく、たとえば「どうぞよろしく」といった時点で既に契約は成立しているのだが、ここではこの契約前後のことについて、いくつか述べることにする。
◇挨拶
アマオケがプロの音楽家とかかわるその最初は、ほとんどの場合「紹介」という形である。たとえば、前任者が後任を紹介してくれたり、レギュラーの音楽家(音楽監督やトレーナー)が音楽仲間を紹介してくれたり、それこそパターンはさまざまだろうが、たいていの場合、仲介者がまず間に入って話の大筋をまとめてくれることになる。その上でオケのスタッフが引き継ぎ新しいプロの音楽家とのかかわりがはじまることになるのだが、このとき陥りやすいミスには次のようなものがある。
それは、仲介者がその音楽家に対して行った依頼(話の大筋をまとめること)を、オケからの正式依頼と勘違いしてしまう、というものである。実は、正式に仲介者からオケに音楽家が紹介された時点では、まだ両者の間には何ら契約が成立していないのである。つまりこのときまでに仲介者がしたのは、あくまでも「下話(したばなし)」でしかなかったのである。
要するにスタッフは、仲介者から紹介があった時点でその新しい音楽家に電話をし、正式に挨拶と依頼をしなければならない、ということなのである。このとき、後日あらためて面会を求めるのならばその件について話し、そうでないのなら公演概略についての説明および意見交換をし、その上で後日、正式依頼文としての挨拶状を出さなければならないのである。なお、この挨拶状と公演終了後の礼状については、作法に則った書状にする必要があるといえる(それ以外は、自署さえあればビジネス文書でも可)。
なお、ゲストのうちトレーナーとエキストラに関しては、この挨拶について多少簡略化してもよい。
◇契約条件
契約の時点で、契約条件についてクリアにせねばならない。なお、マネージメントを通すことを希望してきたら、マネージャーとの交渉になる場合もある。以下に条件項目について述べる。
○出演料
文字通り公演への出演の料金。指揮者、ソリスト、エキストラに適応。公演回数が複数回あるときやエキストラに関しては、ゲネプロ料と本番料に分けて考えることもある。
○練習料
練習の料金。指揮者、トレーナー、エキストラに適応。指揮者は出演料に含めて考える場合もある。トレーナーの場合、練習料というよりはレッスン料である。
○練習回数
練習に参加する回数。多ければよいというものではなく、それぞれに適正回数と適正時期がある。指揮者の場合は公演の2ヶ月前から7〜10回程度、ソリストの場合は公演の2週間前から2〜3回程度、トレーナーはシーズンを通して(予算枠内での)数回〜10数回程度、エキストラは公演直前の1〜3回程度などである。
○演奏曲目
文字通り、プログラムの曲である。このとき指揮者には、使用する版の選択もお願いする。時期的にいささか早いが、アンコール曲について相談してもよい。
○共演者
共演者が決定している場合にはその氏名や略歴を、決定していない場合で紹介を依頼したいときにはその旨を伝える。
○その他
放送メディアの収録や、CD化計画の有無や、公演ビデオの販売などについて。
◇周辺条件
以下に、前もってクリアにしておかなければならない周辺条件の項目について述べる。オケの経営状況に応じオケのスタッフで基本方針をたて、後日ゲストに通告するか相談するかの形をとることになる。
○交通
長距離移動については、常識的に考えると次のようになる。
JRの場合:指揮者・ソリストはグリーン指定
トレーナー・エキストラは普通指定
航空券の場合:予算に余裕があるときのみ指揮者・ソリストをスーパー・シート
これらのチケットを手配して郵送するのか、またはキャッシュ(現金)にて現地精算をするのかは、前もって取り決めておく。なお、回数券やダンピングチケットの利用はあまり好ましくないが、それでも利用する際には、使用するゲストの了解をとっておく必要がある。
ゲストが自家用車を出す場合には、ガソリン代、高速料金などを多めに見積もって支払うことになる。
市内の移動は、タクシーまたは送迎車を配車。ゲストが自家用車で来ている場合も、原則として市内移動についてはオケが手配するものとする。
○宿泊
常識的に考えると、利用する宿泊施設は次のようになる。
キャッシュにてホテル代を支給し、ゲストの個人管理にまかせることもある。
宿泊経費は原則として、ルームチャージおよび朝食の税サ(税金・サービス料)込み料金のみでよいが、場合によっては、ゲストが利用した電話代や館内飲食料金も、一括してオケが支払う場合がある。これは、主催者であるオケがゲストの身柄を拘束していることによりかかる経費だとの考えによる。
○日当
ゲストを拘束している間の食費について、次のような考え方がある。
◇契約書
必要に応じて、契約書を交わしてもよい。契約書記載の一例を、文末に資料として示す。
演 奏 契 約 書 ○○○○(以下甲と称す)と○○管弦楽団(以下乙と称す)は、以下のとおり演奏契約を締結する 1.公演指揮および練習指導 甲は乙が主催する以下の公演において責任をもって指揮し、またその練習において責任をもって指導するものとする 公演名称:○○管弦楽団第○○回定期演奏会 公演日時:平成○年○月○日(○)午後○時○分開場 午後○時○分開演 公演会場:○○県立○○会館大ホール(収容1994席) 〒000-00 ○○県○○市○○町○−○−○ TEL(012)345-6789 練習期間:平成○年○月〜平成○年○月 2.演奏料および必要経費 演奏(指揮)料(練習料含む):¥000,000.− 支払いは公演終了後ただちに現金にて行うものとする 必要経費:その都度、別に定めた規定に従うものとする 3.附則 この契約書に明記されていない事項およびこの契約書について疑義が生じた場合は、甲乙協議のうえ決定するものとする この契約書は甲乙が署名捺印したときその効力を発し、公演終了後全経費の支払いが終了した時点でその効力を失う 上、契約の証として本書を2通作成し、甲乙署名捺印の上、各自その1通を保管するものとする 平成○年○月○日(○) 甲:〒000-00 ○○県○○市○○町○−○−○ TEL(0123)45-4321 ○○○○ 乙:〒000-00 ○○県○○市○○町○−○−○ TEL(012)345-1234 ○○管弦楽団 代表:○○○○ (〒000-00 ○○県○○市○○町○−○−○ TEL(0123)45-0000) |
リハーサルなど、ゲストがオケに来団されるにあたり、毎回事前連絡をしなければならない。事前連絡は、実施日の約10日前または1回前のリハーサルのおりに行うのがよい。以下に、その要点を述べる。
◇確認事項
確認すべき連絡事項は次の通りである。
○期日:何月何日何曜日まで正確に伝えること。来週の何曜日という表現は避けたほうがよい。
○時間:リハーサルの予定時間。午前・午後を正確に伝えること。24時制を併用してもよい。なおゲストに知らせる時間は楽員の集合・解散時刻ではなく、練習そのものの正味の時間である。
○会場:ゲストが知らない会場の場合には割愛してもよい。
○内容:リハーサルなどの形態や曲目を、簡潔に伝える。
○交通機関:リハーサルに都合のよい列車の、発駅発時刻および着駅着時刻などを正確に伝える(帰路についても同様)。また到着後のお迎えの方法についても伝える。たとえば
など。
○宿泊:ホテル名、電話番号、チェックインタイム等を伝える。
○タイムテーブル:当日の簡単なスケジュールを伝える。
○その他:緊急連絡先電話番号やポケベルの番号を伝える。また、練習後飲み会を企画している場合にも、その旨伝えておく。
◇確認書の発送
確認書は、事前連絡で確認した事項を文書化したものであるが、郵送する前にこの確認書をFAXしておくとよい。
確認書の郵送は、実施日の1週間前に配達されるような時期に行うものとする。これは、それ以降だと旅行がちなプロの音楽家のことゆえ、手に渡らないことも考えられるからである。
同封する添付資料としては、地図や(リハーサル)施設案内などが挙げられるが、このほか、ゲストが初めてのホテルにお泊まりになられる場合には、そのホテルのブロッシャー(ホテル案内のパンフレット)などがあるとよい。
また、乗車券等の郵送の必要があるときには、この確認書に同封するとよい。
◇リコンファーム(再確認)
実施日の2〜3日前に、リコンファームの電話を入れる必要がある。何らかの変更事項がある場合にはこのときに伝える。特にない場合には「よろしくお願いします」の挨拶だけでよい。極力手短かに行うことである。なお、ゲストが旅行中の場合には、常識的な時刻に滞在先のホテルに電話することになるが、もしこのときゲストが客室に不在だった場合には、何度も電話をせずにフロントにメッセージを残すだけでよい。
リハーサルなどでゲストが来団されたときのスタッフの活動について述べる。
◇リハーサル前
ゲストの現地到着にあたり「お出迎え」するのを原則とする。お出迎えの方法としては、プラットホームや改札口などで待ち受けるものや、ホテルにお迎えにあがるものや、直接リハーサル会場におこしいただくものなどが考えられが、ここはやはり、ホームや改札口でというのが無難だろう。
さてゲストのお出迎えの際には、ゲストの荷物持ちをしなければならない。これは、ゲストへの挨拶と同時にゲストの(大型)荷物を受け取り、その後、たとえばホテルまでこの荷物を運ぶことを指すのである。
市内移動は、オケが手配した送迎車かタクシーということになる。この送迎車はできる限り4ドアが望ましい。そしてゲストは後部座席に案内する(2ドアの場合は助手席)。乗車の際のドアの開閉は、オケのスタッフが行った方がよいだろう。また、移動の際のゲストの荷物は、スタッフが助手席で抱えるか、後部座席に置くことにする。どうしても車のトランクに入れなければならないときには、あらかじめ了承を得ておく方がよい。そして、ホテルなどに到着後の降車の際のドアの開閉も、オケのスタッフが行った方がよいだろう。
ホテルのチェックインに際しては、オケのスタッフがすみやかにフロントに歩み寄り「○○(ゲスト名)様で予約してあると思いますが」などと伝え、ゲストがフロントデスクに到達したときには、すぐに記帳できるような状態をつくっておくのである。ゲストの荷物はベルボーイに託す。ベルボーイがいないホテルの場合には、フロントロビーまたはエレベーターホールまで運び、そこから先はゲストの要請があったときのみ(ゲストルームまで)運ぶことになる。間違っても「お部屋までお運びいたします」と頑(かたく)なに言い張らないこと。
◇控え室
リハーサル会場には、可能な限りゲストの控え室を確保しなければならない。それは、リハーサルに際してゲストが着替える場合にも必要だし、ゲストの貴重品の管理場所としても必要だし、ゲストの休息の場所としても必要だからである。
さてこの控え室には、あらかじめ軽食や飲物の準備をしておくことになる。この軽食を準備しておくのはなぜかというと、ゲストは仕事の合間をぬって移動していることが多く、したがって食事時にまともな食事をしていないことも多いからなのである。飲物については常識的な範囲で、たとえば「ケータリングセット」として緑茶、コーヒー、紅茶、お菓子類、茶碗、茶托、コーヒーカップセット、急須、ポットなどをのせたお盆を準備しておくとよい。また、あらかじめ煎れておいたコーヒーやお茶などの保温ポットを持参してもよい。夏場などは、清涼飲料水のペットボトルも考えられる。最悪の場合は、自動販売機の缶飲料となる。
このほか、おしぼりや灰皿を準備しておくとよいだろう。
なおこの控え室は、公演会場における楽屋とほぼ同質のものなので、あくまでもゲストの個室として扱うことが肝要である。
◇リハーサル会場
使用する会場が土足厳禁であった場合には、あらかじめゲスト用のスリッパを準備しておかなければならない。
また指揮者やソリストには、所定の座席のほか、荷物置き台用のパイプ椅子も準備しておく必要がある。
◇スタンバイ
リハーサルの前後や合間の休憩時間などには、スタッフはゲストから遠くない場所でスタンバイしておかなくてはならない。伝達事項や確認事項など、ゲストがスタッフに必要を感じたときに、すぐに連絡がつく程度に近くにいることが肝要なのである。このスタッフスタンバイについて、リハーサル前や途中の休憩時間などには比較的問題が起きにくいが、リハーサル終了直後(終了ミーティング中)にエラーが起きやすいのである。特にこの時点での伝達事項は、オケの終了ミーティングでの発表に間に合う場合も多いので、迅速な対応が望まれるのである。
なお多くの場合、スタンバイするのは伝令でもよいので、たとえば付き人がつけばおおむね解決する問題であるともいえる。
スタンバイするスタッフは、ゲストが私用(電話や下準備や楽譜チェックや打ち合わせなど)にふけっているときには、(盗み聴きにならない程度の)距離をおいて接する必要がある。またゲストが、特に何をしているでもないというときにも、適度な距離を保つ必要がある。そしてその上で、距離を縮めるきっかけを見つけなければならないのである。たとえばスタッフにとって、ゲストが暇を持て余しているときに雑談の相手に選ばれるようになれば、しめたものなのである。
要するにゲストは、必要なときにスタッフがそばにいなくてストレスをためる場合もあれば、不必要なときにスタッフがそばにいてストレスをためる場合もあるのである。そしてスタッフは、ゲストの立場にたって考えた距離をもって、ゲストに接してゆかねばならないのである。
◇リハーサル後
ゲストはリハーサル後の時間を、本来はオフの時間であると考えているが、一方、オケとのつきあいの時間、オケとの交流の時間などとも捉えている。そしてたいていの場合、オケの意図を知った上でそれにできるだけ調和させようとも考えているはずなのである。だから、オケとしてはまず最初に(それもできるだけ早期に)自分たちの意図を明確にせねばならないのである。
たとえばリハーサル終了後「どうもありがとうございました」の謝辞に続けて、
「これからスタッフ数人とともにお食事をと考えておりますが」
「これから先生を囲んでということで一席設けてあるのですが」
などと、すみやかに意図を表明しなければならないのである。
本番当日の注意事項について簡単に述べる。なお本番というのは(プロ・アマ問わず)音楽家にとって特別な日である。日頃にもまして、エラーを避けなければならない。
◇楽屋入り
ゲストの楽屋入りに先立って、ケータリングセット(5.リハーサル/控え室の項で詳述)の準備のほか、エアコンのスイッチオン、楽屋入り寸前の照明スイッチオンなど、そつなくこなしておかなければならないことは多いのである。
その上で、ゲストには気持ちよく楽屋入りしていただくのである。
◇楽屋
楽屋とはゲストの個室である。だからゲストの許可なしに、みだりに踏み込んではならないのである。
エラーのなかでいちばん多いのは、ドアノックをしないことである。欧米の常識からすると、非常識の鑑(かがみ)である。ゲストが女性だった場合には、冗談では済まされない。
用件が、特に入室する理由のないものならば、総てドア越しに済ませるべきだといえよう。入室するのは、楽屋の主(あるじ)たるゲストの許可を得た後である。
また付き人などに多いエラーは、不必要に楽屋に長滞在をすることである。こんなときゲストの側からいうと「さっさと用事を済ませて出て行け」といった気持ちである。特にお茶などを煎れる場合、楽屋内のケータリングセットでのろのろと準備する(そのようなお茶に限ってまずい)付き人がいるのだが、こんなときは「そんなに時間がかかるのなら、前もって給湯室で煎れたお茶をもってこい」という気持ちにすらなるのである。
付き人には、どうしても新入団員だとか知人だとか、音楽家とのつきあいが希薄なひとが担当することが多いので、オケのスタッフとしては注意が必要であるといえる。
◇謝礼
謝礼は、ゲネプロ終了直後または本番終了直後、謝辞とともにキャッシュにて支払うことになる。この任には、必ず楽団代表者があたらなければならない(決して会計などの係が行わない)。このとき、いちばん廉価なものでよいから祝儀袋を準備し、表面には「薄謝」「○○管弦楽団」裏面には金額を墨書し、封をしておく。謝礼支払い後、この代表者同席のもとでゲストに開封確認していただき、その上で、あらかじめ宛名と金額を記入した領収書を示し、署名をいただくのである。このとき謝礼のことを、口が裂けても決して「ギャラ」と表現しないこと。
なお謝礼は、各ゲスト個別に支払うべきである。また書いていただいた領収書についても、絶対に人目につかないよう、たとえば封筒内に保管するなどの配慮をする必要がある。これは、各ゲストのプライバシーの保護であると同時に、不必要な疑心を抱かせないための配慮でもある。
公演終了後の活動についてである。公演が無事終了したとの開放感などから、得てしておろそかになりやすいところなので、注意が必要である。
◇挨拶
公演翌日、遅くとも2〜3日中には、代表者がゲストに挨拶電話をしなければならない。
また1週間以内に、挨拶状を発送する必要がある。挨拶状は、決してビジネスレターの書式にしてはならない。なお、報告書等を同封する場合、同封文書に関してはビジネスライクなものでもかまわないこととする。
◇振り込み
出演料を、後日銀行振り込みにしていた場合(決して好ましい方法ではない)、約束期日までに規定の額を振り込まなければならない。
また未精算の必要経費についても同様にする。
これらの振り込みについては、常識的に考えて公演終了後4〜5日以内までとするのが妥当だろう。
◇返送
プロフィール用にお借りした写真等の返送をしなければならない。印刷所からの原稿の返却が早い場合には、公演当日までにゲストに返却できるのだが、そうでない場合も(印刷所に原稿の早期返却を求めて)公演終了後1週間以内に返送するのが妥当だろう。なおこの場合は、お礼状としての挨拶状に同封する方がよい。
また、このほかに借用品があった場合や、ゲストの忘れ物があった場合にも、同様に扱うものとする。
◇郵送
ゲストには、公演の録音ソフトやビデオテープなど、公式記録物の郵送をしなければならない。それは、演奏著作権がゲストの側にもあるからで、プロの音楽家として当然の権利だからである(だから、演奏記録ソフトの扱いは慎重に行う必要がある)。これら記録ソフトのうち、CDや編集ビデオなどそれなりの処理プロセスを要するものを除くと、ほとんどコピーするだけのものだろうから、遅くとも2〜3日中に発送することが望まれる(CDや編集ビデオを制作する場合も、未編集の音素材と映像素材を郵送しなければならない)。
記録用のスチール写真については、業者からの納品後ただちに発送するものとする。
ゲスト応対の本質的な問題について概論する。
◇注意すべきポイント
ゲストの応対上、最も気をつけねばならないのは、「距離」と「線」と「バランス」と「タイミング」である。
距離についてはスタンバイの項(5.リハーサル)でも詳しく述べたが、要するにゲストに対しては「つかず離れず」「かまうでもなしかまわないでもなし」といったニュートラルなポジションをとり、ゲストに気を遣わせずそれでいて臨機応変に対応できる距離を保つことをいう。
くだけていうならば、ゲストにとってのスタッフとは、次のように表現できる。
「目の前にはべっていると気伏せりだし、遠巻きにしているのもかわいくない」
「用事がないのにウロウロすると鬱陶(うっとう)しいし、用事があるのにいないとハラがたつ」
オケのスタッフは苦労するはずである。
次に「線」について述べる。これは作業領域の線引きについての話である。つまり、考えられる全作業のうち、必ずやるのはどの範囲までなのか、ゲストから要請があったときにやるのはどの範囲までなのか、そしてどこから先ができないのかということを、前もって明確にしておくのである。このゲストへの応対をサービス業的に考えるならば、レギュラーサービス、オプショナルサービス、サービス適用外の区分けをはっきりさせるようなものだということができる。
これを本番当日の付き人についてあてはめるならば、次のようにいえる。
ゲストが到着する以前に、楽屋にケータリングセット、パンフレット、花一輪とメッセージカード、灰皿などを準備し、エアコンのスイッチを入れ、楽屋入り寸前に照明をつけ、ゲストが楽屋に戻る度にお茶とおしぼりを出す、というのがレギュラーサービス。
前日中に依頼されていたヘアドライヤーを準備したり、ゲネプロ中に頼まれてタバコを買いに館外に出たり、本番寸前にドレスの背中のホックを留めるのを手伝ったりするのが、オプショナルサービス。
適用外は割愛(さしずめオケが下手だからBPOと取っ替えろ、みたいな無謀な発言など)。
次にバランスについて述べる。これは、総ての応対についてバランスがとれているか、というオケのバランス感覚についての命題である。たとえば、事前連絡はこまめであったのに来団してみたら意志の疎通を欠いていたとか、リハーサルの度ごとに毎晩オケの経費でどんちゃん騒ぎをしたのにもかかわらず本番直前のお弁当代を徴収されたとか、到着したときはタクシーで出迎えてくれたのに帰りはひとり放り出されたとか、本番まではきめ細かな対応だったが本番後はあまりにもいい加減なものだったなどである。冷静ならばこんなバランス感覚の悪いことは生理的にもできないだろうが、時間の流れのなかでは結果的に起こしていることも多いのである。特に本番前後など、するべき作業が錯綜しているときとか、複数の担当者が入り乱れているときには、簡単に起こってしまうのである。
なお、あらゆることに緊縮財政でお金をかけなかったが、その分、スタッフの労働提供や心遣いが大きかった、というのは、いちばんバランスの取れた方法であるといえる。そしてゲストは、変にお金を使ったもてなしよりも、この心を遣ったもてなしの方に、大きな感動を覚えるものなのである(一部、成金趣味の方は除く)。
最後の問題はタイミングについてである。これは、オケのマネージメントのあらゆる行動についてもいえることなのだが、タイミングをはずすとはかり知れぬ大きなリスクを負うことになるのである。つまりタイミングをはずすと、金銭的なリスクや信用度におけるリスクを負うことになり、その回復には大きな時間と資金を要するということなのである。またときには、はずしてしまったタイミングを回復できないこともある。これは「ダメなオケ」とのレッテルを貼られたようなもので、このような場合のダメージの回復は、ほとんど不可能といっても過言ではないのである。
タイミングをはずした簡単な例としては、単に確認書を郵送するだけのことに4〜5日怠慢し、あげくの果てに速達便で郵送し、速達の封書を受け取ったゲストは何事(なにごと)かと思って開封したが単なる確認書でしかなく、結局このゲストは「こいつら(=スタッフ)何考えてんの」ということになり、最終的にスタッフは顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまう、というものである。これなどは、余分な金を使った上に評価が下がるという、タイミングをはずした典型的なパターンである。
◇オケとしての指針決定について
本稿に書かれている内容は、オケがプロの音楽家というゲストを迎える際における、ある部分は標準であり、ある部分は極論であり、そしてある部分はヒントであったりする。
それぞれのオケは、経済的条件、人員的条件、時間的条件、社会的条件により、そのオケの応対の仕方を決定してゆかなければならない。本項前節で述べたように、オケとしてバランスの悪い応対がなされると、いたずらに混乱を招くだけなのである。ゲストはオケのひとつの応対の仕方から、ほかの応対を漠然と類推しているものなのである。そしてそれが予想どおりだった(または、時間とともに応対が細やかになった)場合には、とても居心地よく感じオケに対してもよい印象をもつ(感謝の気持ちすらもつ)のだが、応対の仕方に一貫性がなかったりすぐに途切れたりするようなことがあると、すこぶる居心地が悪くそのオケに対しても不信感を抱くようになる、ということなのである。
一般的に、経済的条件のリスクを補完するものは、人員的、時間的条件の充実であり、またその逆もそうである。要するに、金がなかったら人手(ひとで)と時間をかけ、人手と時間がなかったら金をかけるのである(これはマネージメント全般についていえることである)。
また一般的に、社会人オケに比べて学生オケの方がゲストに対する応対を、より細やかなものにする必要があるといえる。その理由は、ゲストとのレベル差の中に「学生と社会人(=ゲスト)」というものが加わるから(社会的条件の問題)であり、また社会人(オケ)より学生の方が人員的条件、時間的条件に恵まれているからなのである。
以上の条件や観点を冷静に分析した上で、オケのスタッフはゲストの応対について、持続力のある方法を選択してゆかなければならないのである。スタート直後にはりきりすぎて途中リタイアするよりも、控え目な応対からはじめてラストスパートをかける方が、調和的であるといえる。オケのスタッフは、ゲスト応対の最たるものを認識しつつも、あえて控え目な方法を選択してゆくのである。
なお最後に余談になるが、スタッフがどのようなハイレベルのゲスト応対をしていても、一般楽員の姿勢が総てをブチ壊してしまうことがある、ということも述べておく。
ゲスト応対に関連する問題点やヒント・その他について述べる。
◇問題点
アマオケの楽員が、プロの音楽家と接したときに陥りやすい問題点について述べる。
プロの音楽家も、アマオケの楽員も、レベルと立場の違いこそあれ、同じ音楽家である。いわゆる「(舞台と客席を分かつ)線のこちら側」の者同士なのである。プロの音楽家がアマオケに接するときの基本スタンスは、実はここにある。確かにモノ(音楽)を創りあげてゆく作業のなかで、一時的に「指導する者と指導される者」という立場を経験はするが、しかしそのときですら最終的に目指しているのは共演者としての条件作りなのであり、事実、公演当日はまぎれもなくこの両者(プロの音楽家とアマオケ)は共演するのである。
さて、一時的に指導する者と指導される者という立場を経験すると述べたが、実はこの「一時的」というのがくせ者なのである。リハーサル当初から公演終了までの長い時間のなかで、ほんとうに共演者をしているという実感が得られるのは、ゲネプロ本番とその直前だけという、物理的時間の長さからすると全体の中でのほんの一瞬のできごとに過ぎない期間だけである。だからこの「一時的」ということを「永遠」と勘違いし、その結果、プロの音楽家とアマオケの関係を「先生と生徒」と認識してしまうのである。
このような誤解が生じたアマオケでは、しばしばプロの音楽家に対して「何でも答を出してくれる便利屋さん」を求めてくる。しかしプロの音楽家は、便利屋としての能力や教育者としての能力が評価されてプロになったのではなく、ただ単に、演奏家としての能力でプロになったのに過ぎないのである。このような姿勢で接してみてもそのプロの音楽家は、音楽的に啓発はしてくれても決して答は出してくれないだろう。
このような誤解が更に進んだオケで、それも少々タチが悪い団体では「下手で当然、できなくて当然」といった開き直りの姿勢すらみられる(未熟な学生オケに多い)ことがある。あるいは指揮者のことを、単なる「棒振り屋さん」と勘違いしていたりする(音楽界の常識に乏しい社会人オケに多い)のである。
これらは総て、アマオケの楽員の「自分たちはプロの音楽家の共演者である」との自覚の希薄さに起因しているのである。
◇ヒント・その他
ゲスト応対における、ヒントや解説や裏技(うらわざ)について、雑記してみることとする。
○先生
ゲストと楽員が先生と生徒の関係にあるのは一時的なものであるといったが、相手(ゲスト)の呼称に窮したときには、とにかく「先生」といってしまおう。
学生オケの場合は、ゲストは、まず間違いなく楽員の誰よりも年長者であり、社会人であり、プロなのだから、この「先生」という呼称を基本スタンスにしておく方がよい。社会人のオケでも、ゲストが楽員の平均年齢をはるかに超えるベテランだった場合には、先生という方が無難である。
でも、ほんとうは基本的に「さん」づけにした方が、より対等な人間関係が保ててよい(しかしそのためには、アマオケの楽員はゲストに「語るに足る奴」との認識をさせなければならない)のだともいえる。
先生とゲスト考。指揮者は半分だけ「先生」である。ソリストは「先生」である要素が希薄である。トレーナーはほとんど総て「先生」である。エキストラは「先生」の要素が皆無である。以上。
○印刷物
プロの音楽家にとって姓名とは、一種の商標みたいなものである。ひとつの音楽個性という商品の、商品ネームが音楽家の姓名なのだから、その商標が公(おおやけ)になった印刷物などは、必ず本人の目にいれる必要がある。対象となるものは、チケット、チラシ、ポスター、パンフレットなどであるが、このほかにも新聞記事、雑誌記事などが挙げられる。これらは、できれば現物、なければコピーを作成し、ただちに郵送するのである。また、オンエアされたTVビデオテープなどもこれに準ずる扱いをするものとする。
○予約
予約は何でも早い方がよい。特にサービス業としてレベルの高いホテルや航空会社などはキャンセルも容易なので、早めに予約することである。
ホテルの予約は1シーズン分まとめて行うようにする。ゲストが泊まるか泊まらないかペンディングの日は、泊まりということで予約を入れてしまう。公演前後のエキストラの分に関しても、予想される人数に水増しをして予約しておき、最終人数が確定してから変更すればよいのである。
航空券の場合は、ゲストのスケジュールが確定してから予約していたのでは遅い場合があるので、搭乗日の予想される時間内の全便に対して、異なった電話番号で複数の予約を入れてしまうのである(この場合の電話番号は、複数のスタッフの電話番号にしておくとよい。なおエアラインが異なれば、同じ電話番号でもかまわない)。そしてゲストのスケジュールが確定した時点で、いちばん都合のよい便の航空券を購入するのである。
なお、混雑が予想される時期(ハイシーズン)の予約は、ホテル、交通手段とも早めに行わなければならない。また予約が取れなかったときには、旅行代理店に依頼すると取れるときがある。これは業者間でブッキングしていた予約を融通しあうからだが、このようなもしものときのために懇意な旅行業者を作っておくとよい。
○飲み会
ゲストがお泊まりになる際には、何らかの名目で飲み会を開催するとよい。もちろん飲むのが目的ではなく、ゲストのお話しを聞くのが目的なのだが、酒の席だと思いがけない掘り出し物のお話しが聞けたりするものなのである。ゲストが飲み会が嫌いな場合は除くが、そうでないのなら一応毎回お誘いするのがよいだろう。ただしゲストにも都合があるだろうから、辞退しにくい雰囲気は作らないことである。
○プレゼント
オケが、ゲストの心証をよくするための裏技として、打ち上げ会場でのプレゼント攻勢というものがある。男性ゲストには女性楽員から、女性ゲストには男性楽員からという名目で、ちょっとした小物をプレゼントするのである。センスがよくて品のいいものだと、その日の演奏の欠点をかなりカバーしてくれる。反対に、センスが悪くて下品だと、これはもう「恥の上塗り」にほかならない。
このほか、リハーサルがゲストの誕生日の場合には、誕生日プレゼントという手もあるし(郵送してもよい)、女性楽員から男性ゲストに聖バレンタインデーのプレゼントをして、3月14日のリハーサルをこころまちにする、という手もある。
公演当日、楽屋入りしたゲストが見つけてこころなごむものに、小さな花束とメッセージカードがあるが、これなども効果的なプレゼントの例である。
○寄せ書き色紙
ゲストは打ち上げ会場などで、楽員が密かに企画した寄せ書き色紙をプレゼントされると、その場限りにおいては嬉しいものである。もっとも、あとで邪魔になって困りはするが。しかしこれも有効な「手」ではある。
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