16.ライブラリーの運営方法

 オーケストラ(以下オケ)にはさまざまな財産があるが、楽譜などもそのひとつである。当然オケの財産は完璧に管理をせねばならないのだが、特にオケ曲のパート譜は1曲につき数10冊もあるので、たいへんな作業となるのである。更に、楽譜(スコアやパート譜など)というものは、オケの歴史とともにどんどん増えていくものでもあるため、あらかじめ将来を見越した管理方法をとらないと、収拾がつかない事態を招く恐れもあるのである。

 要するに、オケの重要な財産である楽譜というものは、アマチュア(以下アマ)オケにとっては、年々蓄積していくとともにきわめて散逸しやすい、やっかいな代物(しろもの)なのである。

 オケには、このやっかいな楽譜をはじめさまざまな書籍や演奏ソフトを管理する、ライブラリアンという仕事がある。本稿では、その仕事を中心に解説するものとする。


16.1.ライブラリアンの仕事と基本姿勢

 アマオケのライブラリアンの主な仕事には、次のようなものがある。

 なかでも一番メインになる仕事は、楽譜の調達および作成・管理部門だろう。特に楽譜の調達にあたっては、次の基本姿勢を保たねばならない。

 特に、著作権や版権などに関するわが国の現状に国際的な批判が高まってきている昨今、良識あるアマオケであるならば、率先して襟をただしていかねばならないといえるのである。


16.2.楽譜の調達および作成・管理

 ライブラリアンが調達および作成・管理する楽譜についての詳細を、以下に述べる。


◇楽譜の調達

 ライブラリアンは、オケのメインスタッフ(フロントおよび音楽スタッフ)から楽譜入手の指示があった場合、すみやかに楽譜入手の手配をしなければならない。このときいちばん注意をしなければならないのは、楽譜の「版(ヴァージョン)」の選択についてである。その訳は、たとえ同じ曲であっても使用する版が違えば、全く異なった演奏になる場合もあるからなのである。

 原則として使用する版の決定権は、公演の最高最終責任者である指揮者や、(協奏曲の場合)ソリストにある。しかし、ときに主催者の意向で版を指定する場合もあるので、このような場合には主催者(自主公演だとオケのスタッフ)側に決定権があるといえる。いずれの場合も、原則としてライブラリアンに版の決定権はない。ただし、ライブラリアンが版に関する豊富な知識を持っている場合に限り、スタッフにアドバイスをしたりスタッフから一任されたりすることがあり得るものとする。

 さて調達する楽譜は、正規の方法で入手したものを原則とする。つまり新作や発掘作品など、写譜以外に楽譜調達の方法がないもの以外は、総て出版譜ということになる。

 この出版譜というものには、市販されている「売り譜」と、レンタルされている「貸し譜」の2種類がある。売り譜の場合、購入してしまえばそれで総てが完了するが、貸し譜の場合にはそうはいかない。まず、予定されている公演の詳細な情報がなければ、楽譜のレンタルをしてもらえない(入場料によってレンタル料が変わる場合も多い)。またたとえ追加公演が決定しても、その都度レンタル代理店に報告し、新たにその分のレンタル料を支払わなければならないという問題がある。更には公演後、貸し譜を返却しなければならない。

 このあたりのことを考えると、オケで使用する楽譜は市販の出版譜(=売り譜)が、いちばん面倒が少ないといえる。しかし売り譜がない場合には、貸し譜ということになる。そして、もしもこれらの出版譜が手に入らない場合には、図書館や他のオケから借り受けたり、楽員で手分けして写譜をしたりして、楽譜の調達をすることになるのである。


 ◇パート譜の作成・管理

 プロオケの場合、何度も使用されたパート譜は知的財産とみなされている。それは、演奏(またはリハーサル)の回数を重ねるごとに、奏法上の普遍的なノウハウが蓄積されていくからである。

 しかしアマオケの場合には、演奏に使用するパート譜は単なる消耗品でしかない。その訳は、むろんアマオケでも情報(奏法上のノウハウなど)の蓄積はあるだろうが、それは決して普遍的なものではないからなのである。

 原則としてアマオケでは、演奏用パート譜を公演の度ごとに作成せねばならない。だからアマオケのライブラリアンは、最低でも「オリジナル用」と「演奏用」の2種類、できることならば以下に挙げる4種類に分けた上で、パート譜の作成をしなければならないのである。またその管理は、それぞれの種類別に行わなければならないのである(以下に述べる4種類の方法は、あくまでもモデルケースである)。

 a)原譜

 原譜とは、演奏用パート譜などを複製するためのオリジナル譜のことを指す。前述のとおり、これには出版譜がいちばん望ましい。この出版譜が売り譜の場合にはそのまま、貸し譜の場合にはコピーしたものを原譜として保管することになる(ただし版権の問題があるので、あくまでも資料として扱うこと)。出版譜が手に入らない場合には、決して望ましいことではないが、図書館や他のオーケストラから借り受けてコピーしたものでもよいものとする。それでも手に入らないときには、楽員で手分けをして写譜することになる。

 原譜は、管・弦・打とも各パート最低1部ずつあればよいだろう(市販のパート譜の場合、弦楽器群はある程度の編成になっていることが多い)。なお、原譜を演奏の際に使用することは厳禁。原則として禁帯出。ボーイングも含めて加筆厳禁。なお、コピーしたものを原譜として保管する場合には、未製本のままの方が扱いやすいだろう。

 b)コピー用原譜

 原譜を1部ずつコピーしたもの。演奏用譜や個人用譜をコピーするときの原稿として使う。また、他の団体に貸与する場合にもこれを使う。更には、関係者からパート譜の実費コピーを頼まれた場合にも、このコピー用原譜を流用するとよい(すみやかな対応ができるため)。なおこれらの場合には、新たなコピー用原譜を原譜そのものからコピーをして作成し、補充をしておかなければならない。

 さて、コピー用原譜を演奏の際に使用することは、基本的には禁止。原則として、準禁帯出。本来、加筆なども望ましくないことだが、ボーイングなどやむを得ぬ場合の、必要最低限の加筆は認めるものとする(なお、ボーイングを資料として残す場合には、別に作成して保管)。コピー原譜は未製本のまま保管。

 c)演奏用譜

 リハーサルや本番の際に、各譜面台の上に置かれ、実際の演奏に使用される譜面。管楽器はアシスタント用の譜面まで、また弦楽器はプルト分の譜面までを準備する。時に、打楽器が演奏者の数よりも多くの譜面台を必要とし、したがってパート譜もその分多く必要になることもあるが、これについても準備しておく。原則としてオケ事務局ライブラリーの集中管理。楽員への長期貸出は原則として禁止(短期的には、楽譜の所在さえ明確であれば、何の問題もない)。リハーサル終了後、すみやかに回収するものとする。

 演奏用譜の作成には、できればプログラム選曲後ただちに、遅くとも最初のリハーサルには間に合うように、取り組まなければならない。作成には、細心の心配りが要求される。肝心なのは、製本方法やサイズを統一することである(楽譜管理上、重要な点である)。製本が完了したら、整理ナンバーを付ける。また弦楽器用の譜面には、指揮者やコンサートマスターの指導で、ボーイングの原案をつけておく。管楽器のアシスタント用には、吹奏箇所の指定もしておけるとよい。

 なおこの演奏用譜は、原則として永久保管をする譜面でもある。これを永久保管していると、いついかなる時に演奏の機会が訪れても、ただちに取り組めるのである。

 また資金的に余裕がある場合には、このほかにスペア楽譜を作成しておくとよい。スペア楽譜があると、演奏用パート譜を借りだしたままリハーサルを欠席した楽員がいたときにも、代奏(代理奏者)をたてることが簡単に行えるからである。

 d)個人用譜

 いかに演奏用譜があろうとも、個人用譜は絶対に必要。これは個人練習に使用するための譜面なのであるが、オケのライブラリーとしては、必ずしも楽員全員のために準備する義務はないといえる。ただ、演奏用譜の作成のついでに増刷コピーするのが比較的容易なことと、個々の楽員にまかせたとき責任感の個人差が大きく現れてしまうということで、あえてここに示した。なお経費負担や製本は、各楽員にまかせてもよい。


 ◇スコアの管理

 オケのライブラリーが管理すべきスコアには2種類ある。指揮用スコアとミニチュアスコアである。

 a)指揮用スコア

 パート譜を購入した時点で、同時に指揮用スコアも購入するのが望ましい。これはあくまでも、指揮者または団内指揮者に貸し出すものであり、原則として楽員への貸し出しは行わない。したがって、演奏会終了時に返還されるものとする。曲によっては出版されていないものも多く、またかなり高価なものもあるので、ライブラリーの充実はあまり望めないだろう。原則として、一般閲覧の禁止。準禁帯出。

 b)ミニチュアスコア

 これは、一般奏者の参考資料として準備するものである。よって一般閲覧は行われるが貸し出しは望ましくない。ほとんどの作品について出版されているが、時おり(近代・現代の作品を中心に)指揮者用フルスコアしか手に入らないことがある。そのような場合には、指揮用スコアを(縮小)コピー製本して、このライブラリーにいれるべきである。この他、一般奏者向けにスコア購入の斡旋をしてもよいし、また出版されてないスコアや手に入りにくいスコア、高価なスコア等の私家版スコア作成販売を手掛けてもよい。


 ◇楽譜の管理台帳

 部門別に管理台帳を作成する。このとき、曲名、表紙サイズ(縦×横o)、ページ数、部数、出版ヴァージョン、整理番号などのデータを添えて、作曲家名ごとのアルファベット順に管理するのがよいだろう。方法としては、カードファイリングがよく、できればパソコンまたはワープロによる併用管理が望ましい。これらライブラリー管理の楽譜は、原則として一般貸し出しを行わないことになっているが、実際に運用してみるとそういうわけにもいかないので、それならばあらかじめ管理台帳のほかに、貸出台帳を作成しておいてもよいだろう。


 ◇整理番号

 作品別整理番号の付け方については、多岐にわたる方法論もあるところから割愛し、ここでは、各作品のパート譜の管理上の整理番号の付け方についてのみ、述べることにする。一番ポピュラーな方法は次の通りである。

 オケを次の6部門にわける。

 そして、それぞれの延べ数を分母に、それぞれの順番を分子にして、分数表示をする。

  例:編成が「3-2-2-2,4-3-3-1,Tim,Per4,Harp,Piano,7-6-5-5-4」の場合。

 分母は、最初(Flute 1st.:1/27)と最後(Piano:27/27)のみにつけ、途中は分子と斜線だけ(Horn 4th.:14/)にしておくとよい。また、扱いやすさの問題から、左綴じ製本の場合には表紙の左上隅に記載するのがよいだろう(見開きふたつ折りの場合には、左ページの右上)。

 なお、例に示した「3-2-2-2,…etc.」の表示法も、台帳記載等あらゆる場合に有効。


16.3.その他の資料の管理および収集

 ライブラリアンが管理・収集すべきである、その他の資料について述べる。


 ◇オケ発行の印刷物の管理

 オケが公式に発行した印刷物の管理であるが、これには公演パンフレット等が挙げられる。

 まず公演パンフレットについてだが、これは過去の公演にまでさかのぼって収集し、それぞれ各1部ずつファイルしたものを基本として、そのほかにスペア分まで管理するというものである。チケットやチラシ・ポスターも同様に管理する。

 このほか、オケ紹介パンフレットとしての「インフォーメーション」や機関誌などがあれば、それについても管理するのである。


 ◇演奏会の録音などソフトの管理

 演奏会のCDやDATやテープの管理であるが、これには詳細なデータがともなわなければならない(資料価値が半減する)。データとしては、公演名称、日時、会場、演奏曲目、演奏者、録音責任者、録音状況、編集、その他が挙げられる。また、マスター(テープ)であるのかコピーであるのか、またコピーの場合には何世代目のものであるのかも、重要なデータとなるのである。

 保管方法についても、書籍などとは違いややデリケートなので注意を要する。直射日光、高温、多湿、低温、磁気、その他に対して、充分な保全をしなければならないのである。

 なおこれらの管理には、台帳によるものとパソコンなどによるものとの併用管理が望ましい。


 ◇関係資料の収集

 まず楽譜出版関係の資料の収集がある。これには、楽譜出版社のカタログ収集や楽譜レンタル代理店のカタログ収集などが挙げられるが、このほか予算に余裕があれば「オーケストラル・インプリント」という、出版譜の総合カタログを購入してもよい。

 次に会場関係の資料収集がある。これには、公演会場の資料収集やリハーサル会場の資料収集があるが、これらの公共の会場の資料は数種類発行されている場合があるので注意が必要である。一般的な公演会場の資料としては、

また、リハーサル会場の資料としては、

などが挙げられる。なおこれらの公共の会場の利用規約や利用料金は、数年おきに改定されるので、毎年のように情報を集める必要がある。

 このほか、他の演奏団体の活動状況資料の収集なども必要だろう。他の団体との横のつながりを日頃から深めておくと、何かのときに有効なサポートをしてくれたりするのである。


 ◇その他

 オケの活動の記録となる資料の総てを収集整理するのも、ライブラリアンの重要な仕事である。例えば、公演の記録としてのオケの写真集の保管や、オケの活動が扱われた新聞記事等の収集スクラップも、地味ではあるが大切な作業だといえよう。


16.4.その他

 ライブラリアンを取り巻く周辺の諸問題について述べる。


 ◇雑務

 ライブラリアンは、過去に収集した楽譜の再生にも取り組まなければならない。一部のパートが散逸してしまったパート譜は、結局、全体としての存在意義も薄れてしまう。欠落したパート譜を、公共の図書館や他の団体などからの協力を得て、順次補充してゆかねばならない。また、楽譜は所詮紙製品であるので、どうしても破損してしまう(破れてしまう)ことがある。このような破損譜面は、テープなどで仮止めした上でコピーし直すなどして、再生を図るのである。

 また既存のパート譜に関しても、(公演終了後の)長期管理にはいる前に、確実なメンテナンスをほどこしておく必要がある。

 とにかくパート譜は、全パートが存在してはじめて意味を持つものなのである。例えば1枚だけ遊離してしまった楽譜は、その所属が判明しない限り、ただの紙屑でしかないのである。そして、このような所属不明の楽譜が増えると、ライブラリーそのものが荒廃してしまうのである。


 ◇研究

 ライブラリアンは、楽譜の出版に関する知識を豊富に持たねばならない。

 楽譜には、定番というものが存在する。例えば、ひとつの作品に対しては必ずひとつの権威のある版が存在するのである。ライブラリアンは、この楽譜の定番に関する知識を要求されるのである。更に最近では、クリティカルスコア(校訂楽譜)も数多く出版されていたりする。

 例えば、シューベルト/交響曲第7(8)番「未完成」について述べると、次のようになっているのである。

 更にライブラリアンは、これらの楽譜の版による違いにまで精通していることが求められているのである。


 ◇収納アイテム

 ライブラリアンが、楽譜の収納管理をするにあたって有効なアイテムについて、いくつか述べる。

  ◆楽譜バインダー

 各譜面台ごとに楽譜を挟み込む厚手の紙製のバインダー。保管や運搬の際に楽譜を損傷から守るほか、譜面台上では台紙がわりとなる。合成樹脂製のものだと、丈夫ではあるが楽器を傷つける恐れがあるので、避けた方が無難。大きさは楽譜と同程度か、やや大きめのものがよい(B4またはそれより少し大きめ)。バインダーの表紙などわかりやすいところに、楽器名およびプルト数を記載しておく。なお、個人用にも提供するとよい。

  ◆楽譜運搬ケース

 演奏用譜やスペア譜を、一括して運搬するためのジュラルミンケース。内側を布張りにしたボストンバッグ型の金属ケースで、運搬は楽器車で行う(搬入口から先は、台車などにのせて運搬してもよい)。大きさは、楽譜バインダーが2冊横に並ぶ大きさなので、おおよそB3版より少し大きいくらい、深さは20cm程度だろう。ちょうどよい大きさのものが市販されていないときには、手作りにするか特注にする。

  ◆楽譜袋

 原譜、コピー用原譜、演奏譜、スペア譜など、全てのパート譜を、それぞれの管理ジャンル別に1曲ずつまとめて管理するための袋。洋0号の封筒と同程度の大きさで、マチは3cm程度。紙質はかなり厚手のもので、それを更に二重貼りにしたものを特注することになる。袋のフタは特に必要ない。楽譜袋の表面に、内容がひとめでわかる一覧表を添付するとよい。


 ◇方法論について

 楽譜製作上、どのような方法でもかまわないが、ひとつのオケではその方法を統一しておくべき問題がある。以下に述べる。

  ◆コピーの仕方

 次項で述べる「製本の仕方」にも密接に関連してくる問題であるが、とにかく楽譜のコピーの仕方を統一しておく必要がある。次に、その一例を示す。

 原譜およびコピー原譜は、片面コピー。演奏譜についても、あえて両面コピーとはせずに片面コピー(パート譜1冊分の厚さはたかがしれているので、丈夫さを追求するため)。原稿とコピー用紙の関係(トリミングの問題)は「小口(本の綴じていない方)・地(本の下側)合わせ」(=外・下合わせ)にする(楽譜は左綴じ製本なので、右ページをコピーしたときには左と上に大きな余白ができ、左ページをコピーしたときには右と上に大きな余白ができる)。なお再生紙は不可。

  ◆製本の仕方

 製本についても、オケのなかで一定のサイズ一定の方法を取らねばならない。以下に、その一例を示す。

 演奏用譜は、原稿楽譜より少し大きめの一定サイズに裁断するか、コピー用紙そのままの大きさで製本する。

 糊貼り製本の場合は、@左ページの喉側(右側)に幅20mmの糊代をつくり、そこに規定サイズにカットした右ページを貼り付ける。Aひとつになった見開きページを総て合わせ、背の部分を貼り付ける。B小口部分で背中合わせにとなりあうページを貼り付ける。

 簡易製本の場合は、@綴じる紙と表紙の総てをひとまとめて、上下左右の小口を整える。Aステープラー(ホッチキス)で綴じる。B針の頭をつぶす。C紙粘着テープで背を貼り固定する。D小口部分で背中合わせにとなりあうページを貼り付ける。

  ◆写譜の仕方

 写譜のノウハウについて述べるのは極めて難しいことなので、ここではいくつかの有効な注意点などを例示するにとどめるものとする。

 ○写譜ペンを使用すること

 確かに写譜ペンは使いにくいが、それでも日常的にメモ用の筆記用具としてこれを使用していると、そのうち扱いに慣れてくる。なお写譜ペンは、プラスチックペン先のカートリッジインク式のものが、使いやすいようである。

 ○写譜用紙には、原則として10段の五線紙を使用すること

 いちばん普及している12段のものだと、写譜したときに加線がこみいって判読不能になってしまう場合がある。かといって8段以下のものだと、空間があきすぎてかえって読みにくいし、譜めくりの回数も増えすぎてしまうのである。なお、鍵盤楽器や打楽器はこの限りではない。

 ○総てのページの天(上方)余白に楽器名を、また天余白の小口側にページ数を記入すること

 これは、写譜したオリジナル楽譜がバラバラになったときや、コピーしたときの混乱を防ぐため。しかし写譜の最中ページごとにこれを記入するのは、作業の流れが分断されるようで心理的な負担感が大きい。かといって、最後にまとめて記入するのも面倒くさいものである。そのあたりの理由から、しばしば記入もれが起こり、製本作業のときに混乱をきたすのである。

 ○用紙を節約せず大胆に写譜すること

 ○必ず左ページから書きはじめること

 これらは読みやすい写譜をするために有効な方法と、譜めくり回数を減らす手段。

とかく写譜に不慣れな者ほど、詰め込んで写譜をしてしまいがちである。いちばん最初の右ページには曲名その他を書くだけにして、開いた左ページから順次写譜してゆくのがよいのである。もちろん音符の数によっても異なるが、例えば1段に2〜3小節の写譜でも全く問題がないのである。更には、譜めくりの都合で1ページに6段しか写譜していなくても、全く問題がないのである。例えば極端な話、左ページ3段目まで写譜したあと、左ページの残りと右ページの総てをとばして譜めくりをし、次の左ページの最初から右ページの最後まで、ということもあるのである。なお、空間があきすぎるとまた読みにくくなるので、程度をわきまえること。

 ○フローチャートを作ってから写譜すること

 楽譜には音符以外に、総てのパート譜に記載しなければならない、きまりのようなものがある。それは、楽想記号であったり、練習番号であったり、リピートであったり、リタルダンドであったり、それこそ曲によってさまざまである。またこのほかどのパート譜にも共通するものに、小節数というものがある。そこで、以上のものを書き出してフローチャートを作った上で写譜すると、あらかじめ譜めくりの予想がつけやすいし、記載もれを極力避けることができるし、写譜したあとでのチェックもスムーズに行えるのである。


 ◇関係業者

 ライブラリアンの業務はオケの中でかなり特殊なものがあるので、残念ながら、他のスタッフや楽員のサポートを受けられる可能性は、極めて希薄である。そこでライブラリアンは、常日頃から関係業者との接点を多くもち、そのなかから吸収してゆくとともに、いざというときにはこれらのプロのサポートを受けるようにすればよいのである。

 ライブラリアンが業務内容に直接かかわる問題で接点のある関係業者には、楽譜販売店、楽譜輸入業者、レンタル代理店などがある。また、関連業務の上でかかわる業者には、印刷業者がある。
 ライブラリアンはこれら業者から、例えば楽譜の知識、各出版社の動向、新刊情報、印刷の相場など、あらゆる情報を聞き出すとよいのである。


 ◇製本必須アイテム

 製本に使用する道具などについて、簡単なコメントをつけて紹介する。

  ◆カッターナイフ

 刃のぐらつかないもの。刃先はこまめに取り替えること。カットするときは、必ず向こうから手前に引くこと。横に引いてはいけない。

  ◆スチール定規

 幅が広くてやや長いもの。重さを感じるぐらいがちょうどよい。ナイフでカットするのが苦手なひとは、定規の方(左手)をきっちりと固定せず、やたらナイフの方(右手)に力が入っているようである。

  ◆カットボード

 「UCHIDA」の「Cutting Mat」はスグレモノ。なければ、ボール紙の使い捨て。

  ◆はさみ

 いっそ、やや値の張るものを購入しておいた方が、結局得である。

  ◆接着剤

 樹脂系の水糊と、木工用ボンドと、金属用ボンドがあると便利。

 なお無線綴じ製本をしたいときには、次のようにするとよい。

 @製本したい紙を整え小口を平らにする。Aダブルクリップなどでズレないように固定する。B綴じる側の小口に木工用ボンドをまんべんなく塗る。Cボンドを塗布した側の小口を紙粘着テープなどできつめの仮止めをする。Dボンドが乾いたら仮止めテープをはがす。E厚手の表紙(レザックなど)を背の部分に金属用ボンドなどで接着する。F表2とp1の間に見返しを貼る。G同様に表3にも見返しを貼る。H出来上がり。

  ◆固形(スティック)糊

 片面コピーの背中合わせになるページを貼り付けるときなど、水分吸収による紙の伸びを起こしたくないときに使う。

  ◆紙粘着テープ

 パート譜の製本など簡易製本の背を固定するときや、仮止めのときに使う。画材店などで「マスキングテープ」として売られているものがよい。幅は用途によって使い分けるため、15〜30mmまでのものを数種類準備しておくとよい。なおこの紙粘着テープは、一度貼ってもはがせるという利点がある(その割に粘着力もある)。

  ◆製本テープ

 文房具店で扱っている、布テープまがいの紙テープ。スコアの製本には重宝なので、40〜50mmの幅のものを準備しておくとよい。

  ◆ダブルクリップ

 文房具店で扱っている、いかにも力の強そうな板金のクリップ。ふつう黒い本体と銀色の二本足で、足は折れ曲がる構造。いろいろなサイズがあるので、製本するものの厚さに合わせて使うとよい。

  ◆ステープラー(ホッチキス)各種

 いちばんポピュラーな針幅9mm針長4mm用のもののほか、針幅12mm用のものも大中小の3台準備しておくとよい。なおこれら針幅12mm用3台で、針長5mm、10mm、13mm、15mm、17mmの針を使い分けることになる。

 ステープラーを使う上でのコツは、綴じるものに比べて、やや力量不足の針を選定することにある。さてステープラーの製本では、綴じるもの(針)は金属であり綴じられるものは紙である。これを素材の柔軟さ硬さという観点からみると、硬くて柔軟性のない金属の針が時間とともに紙を傷つけていくのは、目に見えている。だから時間がたつことを考えると、少々ひ弱な針で充分なのである。なお、ステープラーで綴じた上に喉側の小口を接着剤やテープで固定しておくと、より金属と紙の喧嘩が押さえられる。

 また、ある程度の厚さのあるものを綴じるときには、ステープラーの台座と同じ高さの平面をつくって、綴じられる紙に歪みがでないようにしなければならない。この配慮を怠ると、斜めにズレた製本に仕上がることになる。

  ◆ラジオペンチ

 ステープル(針)の頭つぶしに使用する。針が紙に対して平坦になるので、より針と紙の喧嘩が押さえられるのである。簡易製本とは、ステープラーで綴じて頭つぶしをしたものを、紙粘着テープで固定する方法である。

  ◆発泡スチロールまたは段ボール紙

 中綴じ製本をするときに、台座として使う。綴じるべき紙(一旦ふたつ折りにして広げたもの)の背を上にして台座上に置き、所定の位置に広げたステープラーをあてがい、台座もろとも突き通すのである(針の足は手で折り曲げる)。

  ◆レザック

 別にレザックでなくともよいのだが、要するにスコアの表紙などに使用するための厚手の化粧紙。B3サイズで保管。


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